三隻腕(和歌山県 高野山) | コワイハナシ47

三隻腕(和歌山県 高野山)

奥の院への夜のお参りは毎年続いた。

同じ所にその三人が立っている。

あれはそういうものかと思っていた。

高校生になった冬のこと、「お塩を清めに行ってくれ」という声が聞こえ出した。

夜になると、耳もとでささやかれる。

Mさんは、幼い頃死んだお父さんの声だと感じた。

「お塩を清めに行ってくれ」

高野山でお塩清めのお参りがある。

冬に裸足で行う儀式らしい。

Mさんは、その年冬の高野山をひとりで登り、手に一握りの塩を持って裸足で奥の院の道に入った。

小川まで来た。

いつも森の中に立っている三人がいない。

夏だけのものなんだろうかと小川を渡ろうとした時、水の中から三本の手が出てきて、あっという間に足首を摑れて引きずり込まれた。

子供のひざまでもない浅い流れなのに、足を引きずられて立てない。

助けて。

思わず握りしめていた塩を手放した。

気がついたら、小川の傍に倒れていた。

怖さと寒さで山を下りた。

帰るなりお母さんに「あんた、どうしたん。背中から血が出てるよ」と言われた。

あわてて着ているものを脱ぐと、服の背中に血がにじんでいた。

痛みがないのでまったく気づかなかったが、長さ四十五センチもの切り傷があった。

傷の大きさの割には出血は少なかったが、それより不思議なことに脱いだ服はまったく切れていなかった。

いつ、誰に切られたのかまったく覚えがないし、母親に言われなければ、気づきもしなかった。

あれから二十数年、Mさんの背中には今も傷跡が残っている。

高野山へのお参りは今も続いているという。

武者はあいかわらず森の中に立っているが、不思議なことに年々朽ちていくのだそうだ。

今は骨になった片腕のひとりだけが立っている。

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