カメラマンのKさんは毎朝、杉並区の方南町から井の頭公園まで、神田川沿いにジョギングするのが日課だという。
ある朝いつもの道を走っていると、背中に悪寒が走った。
なんだろうと思ってまわりをよく見回すと、珍しく自分ひとりしかいない。
人通りの多い道で、雨の日でもひとりということはないというのに……。
人に会いたいと思ってペースを上げると前方に妙な人が見えた。筒のような編み笠をかぶっている。
虚無僧だ。
今どき、時代劇でも珍しいのにと思いながら近づいた。
すれ違いざま、身体が震えて、一瞬髪の重さがなくなったように感じた。
その時うしろからお経とも呪じゆ文もんともつかない女性の声が耳に入った。
尼僧だ。
気がつくと、あちこちに人がいる。
Kさんは怖くなって、その場から離れた。
頭が軽くなったと思ったら毛がぴんと逆立っている。
あわててそれを直そうとしても、まるで髪が凍りついているように硬くなっている。
無理に直そうとすると、パリパリッと小枝が折れるような音がして、溶けたように元に戻った。