Hさんのお父さんは宮崎県で不動産屋を経営していた。
ある日、「お前のアトリエにピッタリの物件を見つけたから見に行こう」と父に言われるままに車で鹿児島県まで連れていかれた。
車は見知らぬ山道を行くと左右に竹林が延々続く一本道に入った。その竹林を抜けた中心に、二階建ての一軒家が見えた。
Hさんはその家の周囲を見て、しばし茫然と立ち尽くした。
その家を中心に、竹が全部外に向かって放射状になぎ倒されている。
竹を麦のように倒せるなんて知らなかった。
一方父は全く何も気にならない様子だ。
「中に入ってみるか」と言われたが「いや、いいよ」とHさんは拒否した。
すでにまわりの倒竹を見て心は決まっていた。
だが父親はひとりで中に入っていって物色している。
それにしても見れば見るほど陰気な空き家だ。
しばらくすると、ほうら、こんなもん見つけたぞと父親は掛け軸を持って出て来た。
「いやだよ、こんな家」
「そうか、残念だな。じゃあ帰るか」
その夜、Hさんは夢を見た。
夜の空を飛んでいる。
目の前の風景がすごい速さで後ろへ飛び去っていく。
そのうち、地面すれすれの超低空飛行になった。どこかで見た風景だと思っていると、ふいに竹林が現れた。
昼間、父親と車で通った道だ。
竹林を抜けると、減速しはじめて、あの二階建ての一軒家が見えると動きが止まって、その玄関横に降り立った。
まわりの竹が外に向かって倒れている。
昼間見た風景とまったく同じだ。
音もなく玄関の戸が開いた。
なにか出てくる。父親かなと思って見いると、中から浴衣ゆかたがはだけた真っ白な顔の男が出てきた。体が異様に大きくて細い。
思わず息をのんだ。体が大きいのではない。首が上に引っ張られるようにして、まるで異様に肩が長い。真下を向いた顔から肩にかけておそろしく伸びている。
総毛立った。
男は、まるでぶら下げられたような動きで上下にひょこひょこ揺られながら外に出て、ゆっくりとHさんの前を通り過ぎ、くるりときびすを返すと、また上下に揺れながら玄関の中へ入るとピシャと閉まった。
途端に、ビデオ画面を逆もどししたかのように家が遠くなり、竹林の道を逆に遠ざかっていく。
どんどんどんどんと景色が後ろから出て前へと流れた。
はっ、と気がついたら、自分の部屋の布団にいた。