吞み池(広島県) | コワイハナシ47

吞み池(広島県)

四十年ほど前の話である。

広島県のN高原で、小川をせき止めて貯水池を造る工事が行われていた。

その日、作業がはじまろうとしていた時だった、水が溜まりはじめた池の端に止めてあったパワーシャベルが、池にむかって斜面をすべりはじめた。

池に入っても昨日まで小川だったものだ、それにキャタピラはぬかるみには強い。アームも使えばすぐに出せると誰もが気にも留めなかった。

ところが斜面に突き立てたアームなどおかまいなしに車体が、ズブズブと沈んでいく。

「おーい、ちょっとこれ引き上げてくれ」と、とうとう乗っていた作業員が別のパワーシャベルを呼んだ。ワイヤーでつないで引き上げようというのだ。が、それでもまったく沈下が止められない。

作業員はパワーシャベルを降りて、膝まで水に浸かりながら、地上にいるパワーシャベルに近づいた。

たいした深さではない。もっと思い切り引っぱり出してくれと指示した。

振り返るとすでに操縦席の半分まで沈んでいる。

気のせいか沈む速度が早くなっている。

そんな馬鹿な。昨日までは小川だったのにと思っている横を、もう一台のパワーシャベルも池に引きずりこまれはじめた。

先の一台はもうほとんど沈んで見えなくなっている。

「いかん、ワイヤーをはずせ!」

遅かった。ワイヤーをつないだまま、二台目の車体が縦に立ち上がるとあっという間に沈んでしまった。

寸前まで乗っていた作業員が降りるのがやっとだった。

人だと膝までつかるくらいの深さしかない。しかも昨日までは小川だったのだ。

なにがどうなったのか、作業員全員で呆然と二台のパワーシャベルを吞みこんだ池を見つめた。

その後、膝までしかない水たまりのような浅い池を掘り捜したが、二台のパワーシャベルを見つけることはできなかった。

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