消えた整備員 つくばサーキット(茨城県下妻市村岡) | コワイハナシ47

消えた整備員 つくばサーキット(茨城県下妻市村岡)

レースが始まる前に、チームでメカニックをしている吉田さんが行方不明になった。買い物に行くとも何も言わず、急に消えたのだ。

何処を探しても見当たらない。

開始の時間が迫る一方、携帯電話に連絡してもコールするだけで出ない。

マシンの整備はできていたので、メカニック不在のままレースが始まってしまった。だが特にマシントラブルもなく、無事にそのレースは終わった。

「吉田さんそれにしても半日いないよな。そろそろ捜索願いなんじゃないか?」

半ばチームの仲間たちが冗談交じりで言っていたが、夕方になっても戻ってこない。

「これは途中で事故にあったかもしれない、やっぱり警察に通報しよう」

となり近くの警察署まで行くことになった。

すると驚いた。吉田さんが署内の椅子に座っていたのだ。

チームの皆は駆け寄った。

「吉田さん! どうしたんだよ、戻ってこないから心配したよ!」

「何かトラブルでもあったのか?」

口々に理由を聞いた。

「……ああすみません。僕も全くここに座ってる意味がわからなくて……」

吉田さんが言う事情はこうだった。

ピット内でバイクの整備をしていたら、見知らぬ男性が入ってきた。

振り向きざまに首元を掴まれ、数回顔を殴られた。痛くて倒れ込むと、今度は足で蹴り続けた。命からがら、とにかくピットから出なくてはと思い、この乱暴な人間がここにいたらバイクはどうなるかわからない心配はあったけれども、無我夢中で逃げた。

十分ぐらい道を必死で走り続けてたら、パトカーに保護されたという。

皆その話を聞いて首をかしげた。

バイクはそのまま普通にレースに出場できるくらい整備できていたし、そんな乱暴な人間ならピット内をぐちゃぐちゃにするくらいはやりかねない。なのに荒れた様子もないし、そういう人も誰も見ていない。

そこに刑事がやってきた。

「吉田さんの関係者ですか?」

「あ、はい。つくばのレースチームの者です。彼は整備をしていて、急に朝からいなくなったんで捜しに来たんですよ」

刑事は声をひそめて聞いた。

「そうか……彼は変な薬物とか普段やってない?」

「いえ、そんな人じゃないと思いますよ」

「じゃあ、病気かな。一度病院で検査するよう言っておいたんだけども……」

「どうかしたんですか? 吉田さんは被害者でしょう? 暴行されて逃げたって聞いてます」

「そう言うけども加害者はいないからなあ」

吉田さんを保護したお巡りさんの話では、道路の真ん中を大声で走っている人がいると通報を受けたのだそうだ。

現地に向かうと吉田さんは道路の片隅で大声で何かを口走り、しゃがみこんでいた。

吉田さんをパトカーに乗せて署に連行したら目が覚めたように落ち着いたという。

当の本人は一切その記憶がない、吉田さんはまだ恐怖に怯えている様子だった。

「追いかけてくる気がして帰りたくないんですよ……」

警察署の扉が開くたび、吉田さんはビクッと体を震わす。やはり今までと違う。

「これはいけない。お寺でお祓いしてもらおう」

レース場では事故も多発する。中には霊が憑りつくレーサーもいるが、メカニックに悪さをしてくる霊はあまりいなかった。

住職は吉田さんを見るなり、すぐに奥の部屋に招き、塩を撒き除霊を始めた。

話では、彼に現れたのは浮幽霊ということだった。

この霊は生きていたときはバイクの整備の仕事をしていた。だが、借金を苦に自殺してしまった。

サーキットを訪れピットで作業しているメカニックを妬み憑依したそうだ。吉田さんに恨みがあったわけではなく、たまたまいたから憑依したのだろう、ということだった。

「ただ、安心していけないのは、浮遊霊に憑依されるとこのように道に飛び出たり、頭がおかしくなったかのようになる。人や物を傷つけることもあるし、飛び出して事故や落下したりと二次災害のような危険性がある」

これを聞いて、チームのメンバーは皆ぞっとした。

これがもしピットにいたのがレーサーで、レース中に憑依されていたら……。

吉田さんはそれ以来メカニックの仕事は一切やめ、現在は家業を継いでいる。

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