船頭狐(岩手県) | コワイハナシ47

船頭狐(岩手県)

Dさんが岩手県で出会った話である。

友人とふたり、四輪駆動の車で遠野市を目指していた。

急いでいたためか、気がつけば、まったく知らない山道を走っている。

なんとか地図にある道に出ようとしているうちに、ざっと目の前が開けて頂上に出た。

車一台分ほどしかない頂上だ。

ここが一体どこだかさっぱりわからない。

前に行くにも後に引くにも道らしい道がない。

道のないこんなところをどうやって来たのだろうとふたりで茫ぼう然ぜんとしていた。

もう日没も近い。

途方に暮れていると前方の藪から音がした。

見ると、藪の間から年老いた、小さくやせて白っぽい狐が姿を現した。

ふたりの方を向いて座ると、うなずくように首を縦に振りはじめた。

驚いて見ていると、老狐はぽんと茂みの中へ姿を消した。

ふたりとも、これはついて来いって言ってる、と感じた。

続けとばかりにDさんは車を発進させた。

車は急斜面をまるで落ちるように滑っていく。その前を、老狐が走っている。

その狐の姿が目の前から消えた。

その瞬間、我に返った。

「こんなところ降りて大丈夫か!」

ブレーキをかければ、急斜面で車は横転してしまう。この流れにまかせるしかない。

もうだめだと思った瞬間、ドンという衝撃。

国道だ。

遠野市はすぐ近くだった。

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