お弁当狐(北海道) | コワイハナシ47

お弁当狐(北海道)

北海道の厚沢部に中山という名の峠がある。

この峠道のどこかに山菜の宝庫があるのだそうだ。

ここをただひとり知っている人の話。

三年前の春。その人は籠を背負って山の中に入った。

山菜を籠に集めていると、いつからいたのか横を四、五歳の子供がひとりで走り回っている。

坊やどこの子だ、どこから来たんだ、と尋ねても、振り向きもしなければ立ち止まりもしない。

まあ、楽しそうに走っているからいいだろうと、少し場所を変えて採りはじめると、その子が真横にしゃがんでいたので驚いた。

いつの間に横に来たんだと言っても、ニコニコしながら黙っている。

目が大きくて可愛らしい顔立ちをしている。春先とはいえまだ寒い。なのに半はん袖そで半ズボンという夏の服を着ている。

元気な子だなと思った。

気にせず山菜を採りはじめると、もういなくなっている。

音も気配もしなかったので、ずっと横でしゃがんでいるのかと思っていた。

昼になったので弁当のおにぎりを出したその時、自分のまわりをさっきの子がまた走り回っている。

お父さんやお母さんは、と尋ねても返事ひとつしない。

聞こえないのかと思って最後に「ひとつ食うか」と声をかけたら、目の前に走り寄ってきてちょこっと座る。

ほう、可愛いもんだとおにぎりを一個差し出すと、ぱっとつかんで熊笹の茂みの中に入っていった。

「そんな所に入っては危ない」と大声を出したが、笹の中をまっすぐ進んでいって気配がなくなった。

その動きに迷っている様子はなかった。

車を停めている峠道に出れば、その子の家族と出会うだろうと早めに切り上げた。

峠道に出たが自分の小型トラックしかない。

きっともう帰ったのだろうと車を走らせた。

しばらく走ると道端に子狐が座っているのが見える。

渡る気なのか、道に向かって座っている。はねてはかわいそうだと減速した。

飛び出しはしないかと注意して子狐の前を通りすぎようとした時、ぺこっと頭を下げた。

顔を見ると、口のまわりが飯粒だらけだった。

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