狸天功(奈良県) | コワイハナシ47

狸天功(奈良県)

おばあさんの幼い頃というから、戦前のことだ。

奈良県の山間部にある村での話。

肥壺を風呂だといって入っていたり、同じ道をぐるぐる回ってなかなか帰れなかったり、若い衆が綺麗な女性にたぶらかされたりして、村の者がしょっちゅう狸に化かされていたのだという。

ある日、学校から帰ると家中が騒がしい。

「どないしたん?」と父に聞くと、「じいさんがまた狸に化かされよってな。もうみなで我慢できんゆうて山狩りやってな、とうとう狸を捕まえたんや」と言う。

「その狸さん、どこおんの?」

「庭の檻の中に放り込んである」

庭に出てみると、なるほど檻の中に一匹の狸がいる。

可愛いなと思った。

檻の中で行ったり来たりしている姿を見ていると、人を化かす話が信じられない。

夕食の後、また狸が見たくなって庭に出た。

ところが檻が空だ。

「あっ!狸がおらへん!」

でもかんぬきは下りたままだ。

かんぬきをはずし、扉を開けてのぞき込んだ。

やっぱりいない。大変だ。

「狸が逃げよった。おとうちゃん、狸おらへん!」

声を聞きつけた家の者が出てきた。

「開いとる!お前が開けたんか」と父が言う。

「そやかて、狸おらへんかったさかい開けて中見てみたんや」

「それが狸に化かされるちゅうこっちゃないか、あほやな」

みんなは呆れて庭や家のまわりを探し出した。

「うち化かされたん?」

檻の前にぼんやり立ち尽くしていると、後ろから袖を引かれた。

どこから現れたのか、見知らぬ小さな女の子だ。

「ありがとう」

そう言うと、植木の間に姿を消した。

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