磔刑場跡(茨城県水戸市) | コワイハナシ47

磔刑場跡(茨城県水戸市)

『通りゃんせ通りゃんせ ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ どうぞ通してくだしゃんせ 御用の無いもの通しゃせぬ この子の七つのお祝いに どうぞ通してくだしゃんせ』

この道が昔どんな道であり、その先にどんな地獄が待っていたか、今となっては知る人が少ない。アスファルトは、骨を埋めた盛り土も、血に染まって赤黒くなった土も全て覆う。特に刑場や罪人の胴体だけの死体を埋めた場所など、わかりはしない。

床のメンテナンスをしているJさんの体験だ。国道の周辺にとあるレジャーホテルがあり、ここの床のコーティングの仕事を頼まれていた。ホテルはどの部屋も二十四時間営業しながらなので、一日に一部屋ずつやることになっていた。それでも朝から晩までやっても納期までには終わらない。そこでその部屋に深夜まで泊まがけで作業をすることになった。もう一人の従業員は右隣の部屋に泊りがけで作業をしていた。

「コンコン」

と部屋の扉を叩く音がした。隣の社員だなと思い開けると誰もいない。

気のせいかと思って、作業を進めていると誰かが扉をキイっと開けて入ってくる音がした。これは明らかに社員だろうと思って、

「ああ? もう作業終わったか」

手が離せなかったので振り向かずに言った。すると、

「まだです」

「まだ? なら何しに来てんだよ」

「見にきました」

「遊んでねえで、やれよ……ったく。時間ねえぞ」

と振り向くと誰もいない。

さすがにJさんはゾッとして、隣の部屋に駆け込んだ。

「おい、脅かすなよ! 今お前俺の部屋に来ただろ!」

「え? 行ってませんよ。見てわかるでしょ、手が離せるわけない」

その社員もJさんと同じ作業をしていて、振り向かずに答える。

「じゃあさっきの何だったんだよ」

「知りませんよ。僕も部屋に一人でおっかねえんですからやめて下さいよ」

おっかねえな……。ぞくっとしながらも、Jさんは部屋に戻り作業を続けた。

気になるのは左隣の部屋の声だった。男女で泊まっているのだろうが、男が相当激しいのか、唸り声のようなもの、女の悲鳴じみた喘ぎ声が聞こえる。それが深夜まで続く。まあずいぶん元気なもんだな、と呆れていた。

やっと朝三時に終わり、その部屋の広いベッドで横になった時だった。寝ている間に妙な夢を見て寝苦しくなって起きた。ベッドの周りにたくさんの人が歩き回る夢だった。そのパタパタと歩く音で起こされた。怖くなって床を見たが、特に足跡はわからなかった。

「絶対誰かいる」

Jさんは気になり、洗面台の周りの床にコーティングのシールをひいた。これは特殊なシールで、歩いた跡が残るのだ。時間が経てば消える。防犯用に作った特許申請用のものだった。もし誰か来ているなら、そこに足跡がつくはずだ、と。うとうととしてまた眠った。朝になって目を覚ましベッドから起き上がった。そして床を見た。

ベッドの周りの床一面びっしりとの裸足の足跡がついていた。

「うわあああ」

すぐにそのことを隣の部屋にいる社員に言おうと、廊下に出て呼び鈴を押した。

社員が眠そうに出てきた。

「何ですかあ、もう……」

「おい、俺の部屋絶対何かいる! お前のとこ、なんかいねえか?」

すると社員が眠そうに答えた。

「社長、もういい加減にして下さいよ、何回目ですかこうやって起こすの。さっきもベッドまで来てぶつぶつ文句言ってたでしょ」

「はあ? 俺お前のとこなんか行ってねえ。それに入れるわけねえよ」

隣の部屋もオートロックなのでJさんは入ることができない。ゾッとして、受付に言ってすぐ出ることにした。受付のある入り口では空き部屋が電子パネルでわかる造りになっていたのだが、Jさんの左隣の部屋番号が空き室マークになっていた。

「ちょっと、この311の部屋も帰ったの?」

受付の人は変な顔をして

「311は元々開けてません。その電子パネルが間違ってます」

「と、隣で人の声がしたけど?」

「誰も入れてませんって」

「じゃあ、あの音は? 男と女の声……」

「それは聞き違いでしょう……この部屋は色々あって開けてません」

Jさんと社員はこのホテルの仕事をする時は昼間に二人以上でやろう、と決めた。

気になってそのホテルを調べたが、特に殺人事件らしいことはなかったという。

聞いた話ではそこは江戸時代の頃、さらし首になった罪人の胴体だけを埋めたと言われる場所の近くだった。磔で殺され、死体をさらされた人もいたという。方角としてもその部屋は霊の通り道になっているのではないかと言われていたそうだ。特に旧道の近くには刑場用の原っぱがあった。今では住宅が密集していたりと、はっきり言えない場所もある。旧道にはそういう場所があるということだ。霊の、死の通り道でもあった。

昔むかし、刑場の周りにはたくさんの見物客が押し寄せた。罪人を見るのは一つの余興でもあった。今日はどんな人が殺されるか楽しみだ。通りゃんせ、通りゃんせ。

とすると、隣の311号室の叫び声は断末魔……今は昔の『通りゃんせ』。

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