幽霊アプリ 常磐線(茨城県県央) | コワイハナシ47

幽霊アプリ 常磐線(茨城県県央)

吉野さんが出張のために、都内から常磐線の特急ひたちでいわき方面に行った時のことだった。夜だったのでどこをどう通っているのかわからなかったが、常磐線の終点までの間にあるトンネルにいわくがあるという噂があった。そのトンネルは常磐線ができた頃からあり、トンネル内で作業する人は線路内にある避難場所に入る。

ところが深夜の作業の時に、貨物列車や客車が通る時など間に合わず跳ねられて命を落とした作業者がいた。

運転手には何かにゴトっと乗った感覚しかなく、人間の身体は肉片や骨を砕きながら跡形もなく前に進む。その運転中の違和感しかなかったそうだ。

作業員が亡くなった事を後で知った運転手は、お墓に行き弔いをした。

しかしその後からだった。

車輪にはもう何もついてないのに、トンネルを通るたびに何か車輪に引っかかったような違和感があるのだ。ついにその運転手は気が狂ってしまい、自ら常磐線に飛び込み、同じように車輪に巻き込まれて死んだ。

そんな不気味な情報を読みながら、吉野さんは終電の真っ暗な外の風景を見てぞくっとしていた。彼は怖い話も幽霊に対しても、好奇心は旺盛な方だった。

それで、最近取り入れた『幽霊アプリ』というものを使ってみようと思っていた。

霊が多い所では千ポイントを越すという。

トンネルと思われる場所で使ってみたが、五百ポイント程度。水戸につくまでにこのスピードじゃあ霊も間に合わないんだろうなと諦めた。

「考えたら茨城は平野ばかりだし、福島まで行かないとそんなトンネルはないよなあ」

そして急な睡魔が起きて、吉野さんはそのまま眠ってしまった。

吉野さんが寝ていると、隣でガヤガヤと騒がしい音がする。おばあちゃんかおじいさんの団体のようだった。言葉の訛りを聞くと、茨城弁とすぐわかる。

「……もう今夜はこいつだけしかいねっぺか(いないか)?」

「んだなあ。もっとうまそうなの他にいねえか?」

「いねえいねえ。こいつはさ、焼けば油が落ちてうんめえから」

「とかいって、前も油べったりの肉だったっぺ?」

「贅沢いうなってえ。後は向こうで寝てるやせっぽちしかいねえべよ」

「あれはあれで別嬪だし、うめえかも知れね」

何の話だ? 肉? 吉野さんは百キロ超の巨漢ではある。うっすら目を開けると誰もいない。夢だったのかと思い、念のためアプリを起動するとなんと三千ポイント。通常の三倍も霊気がある。さっきのはやっぱり……

妖怪でもいるのかと見渡すが声の持ち主はいない。振り向くと、後ろに一人華奢な美しい女性が座っていた。熟睡していて、この人が話すわけがない。

もう一度吉野さんは眠りについたふりをした。するとまた声がした。

「どっちにすんだ?」

「じゃあよ、車掌が先に話しかけた方にすんべ」

「そりゃいい」

(ははん。どうやら車掌にキップ拝見を早くされた方が、この霊たちのえじきになるのだな……)

吉野さんはそう思い、また目を覚まし、しばらくトイレにこもる事にした。二十分ほどして席に戻ると、後ろに座っていた女性が車掌と話をしていた。しめしめ、これで俺は餌食にならなくて済む……幽霊アプリありがとう! と思っていた。

女性が水戸で降りていった。

(可哀そうに、彼女は霊たちにホームで押されるのかな、バスにでも轢かれてあの世に行くのかな……)

と吉野さんは意地悪そうな顔をして、内心ほっとしていた。

だが、水戸を過ぎたあたりから猛烈に心臓が早打ちし、胸が圧迫してきた。

これはまずい、心筋梗塞か何かだ……激しい痛みと薄れゆく意識の中で走馬燈のように思い出してきた。

笑顔で寄ってくる男性。俺は上野で乗り、空いてる席に着いた。

「どちらまでですか?」

「いわきまでです」

「そうですか、この席は別の方が予約してたんですが、今夜は他に誰もいませんのでどうぞお座りください」

「こうやってキップ買ってもキャンセルする人もいるんですね」

「たまにいます。乗る前に何かアクシデントがあるのか、この席が嫌なのか……全席指定ですから、本当は決まった席に座ってほしいですけどね」

そうだ、最初に車掌と話したのは俺だった。乗車したときだったな。

スマホを見ると幽霊アプリは五千ポイントを超えている。たくさんの手に座席から滑り降ろされるように下に引っ張られている。もう、奴らの餌食になっていくんだな……ともうろうとする意識で感じていた。

吉野さんは次の駅で救急搬送された。急性心筋梗塞だった。

耳に残っているのは、

「車内に急病のお客様がいらっしゃいましたので……」

早い発見と処置で何とか命を取り留めたが、しばらく後遺症が残った。

吉野さんの意識が戻るまで、幽霊アプリはずっと五千ポイントをキープしていたという。

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