来る(山形県) | コワイハナシ47

来る(山形県)

四半世紀ほど昔。篠井さんが、高校一年生の頃の体験談である。

ばすん。突然、家じゅうの電気が消えた。

真っ暗な部屋に、打ち寄せる波の音と、防風林を渡る風の音だけが響く。

これが停電でないことは分かっている。ブレーカーが落ちたのはでないことも。

篠井さんは今、複数の仲間とともに、友人のアズミさん宅にいるのだ。

二階にあるアズミさんの部屋が、たまり場だった。お喋りに興じたりゲームをしたり。

今、時刻は二十四時過ぎ。昨日も、この時間であった。

今日も来るのか。篠井さんたちは無意識に身体を寄せ合った。

ガラララ、ガタン。玄関の引き戸が勢いよく開く。

ガラララ、ピシャン。忙しなく引き戸が閉まる。

ドタ、ドタ、ドタ、ドタ。板張りの廊下に足音が響く。

大股で、踏みつけるように歩いているのが分かる。

スパン、ピシャン。襖を開けて、閉める音がする。

ドタ、ドタ、ドタ、ドタ。スパン。ピシャン。部屋を一つずつ、回っている。

「姉ちゃん、ダメだ。電気点かない。ブレーカーは落ちてない」

隣室にいたアズミさんの弟が、襖の隙間から顔を覗かせて言った、そのとき。

ビタン。湿った足音が、二階へ通ずる階段の一段目を踏む音がした。

まさか。二階に上がってくるというのか。昨日は一階を徘徊しただけだったのに。

慌てて部屋へ飛び込んできた彼も、篠井さんとともに身を寄せる。

ビタン、ビタン、ビタン、ビタン。ゆっくりと、しかし確実に階段を上がってくる。

スパーン。弟の部屋の襖が開けられた。

声が漏れそうになるのを、手で押さえて皆必死で耐えている。

ピシャーン。襖が閉じられた。

ビタ、ビタ、ビタ、ビタ。次は、この部屋だ。篠井さんは下を向いた。

部屋にいた誰もが、息すらもこらえてじっとその身を固くしている。

この部屋の襖も開けるのか。入ってきたらどうすればよいのか。

考えてもどうしようもないことが、ぐるぐると頭を巡る。

……ビタ、ビタ、ビタ、ビタ。

足音は再び動き出し、廊下の端まで進み、そして気配が消えた。

電気が灯る。クロマツ林の揺れる音と、波濤の寄せる音が再び部屋に戻ってくる。

翌朝。

「じいちゃん、これどこから拾ってきたの!すぐ捨ててきて!」

アズミさんがキンキン声で怒鳴る前を、アズミさんの祖父がよれよれと歩いていく。

その腕には、背丈よりもなお大きなサーフボード。

「――アズミのじいちゃんは何でも拾ってきては物置小屋に集める人だったんですけどね。まさかサーフボードまで拾ってくるとは思ってもみませんでした。拾った海岸に戻してからは、『あれ』は家に来ませんでした。やはり、何者かが取り戻しに来て、家の中を探していたんでしょうね」

そう、篠井さんは語った。

山形県庄内地方での出来事である。

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