津軽乃怪(青森県) | コワイハナシ47

津軽乃怪(青森県)

私が、津軽地方某市に勤務していたときの話である。

赴任して最初の業務は、自分が仕事をすることになるオフィスの用地探しであった。

当地への進出自体がまだ非公開であったため、不動産業者には声を掛けられない。

そこで、家具付き賃貸アパート内の自宅を仮オフィスにして、そこを拠点に自分の足で土地を探すことになったのである。

さほど大きくもない街の、その中心部。

バス通りに沿って、ひたすら歩く。空き地や空きビルをリストアップしていくのだ。

とはいえ、そうすぐに見つかるものでもない。

かつて栄えたであろうその街の、幾つも並んだシャッターばかりがフイルムのように私の視界を通り過ぎていった。

冬が、すぐそこまで近付きつつあった。

日本海側特有のねずみ色の雲が厚く低く空を覆い、稲刈りを終えた田を吹き抜ける風が肌を刺した。

その日も私は、市内を歩き回っていた。もう一カ月も費やしているだろうか。

手元の地図は、ほぼ全面が真っ赤になっていた。チェック済みの物件に印が付けられ、調査済みの道は裏通りまでマーカーで塗り潰されていた。

ところがその中に、まだ真っ白なままの道があることに気が付いた。

バス通りをショートカットする、住宅街の中の抜け道のようである。

期待できないことは分かっていたが、気が滅入りつつあった私は気分転換も兼ねて行ってみることにしたのだった。

家の狭間にねじ込まれたような道である。

軽自動車でも通行に難儀しそうだと思った。

足を踏み入れた途端、すうっと空気が変わった気がした。

すぐ背後の通りにはバスも車も走っているというのに、ここには音が届かない。

ひび割れたアスファルトの路面、薄汚れたモルタル仕上げの壁、そして曇天。

上下左右を鈍い灰色に囲まれて、私はますます陰鬱な気分になった。

夕方と呼ぶにはまだ早い時間だというのに、人とすれ違わない。野良猫一匹さえも。

突如現れた木造家屋は住む人を失って久しいのであろう、壁板は剥がれ、全体が大きく傾いでいる。この通りでは、家すらも息吹を失っているように思った。

この街特有の細い水路はこんなところにまで張り巡らされていて、何も映し出すことのない濁った水がゆらゆらとしている。

脇に立つ社は何故か西を向いて建っていて、おまけに鳥居もなかった。

ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。

どこかで、インターホンが鳴っている。

私の足音以外に、そこで初めて聞く物音であった。

それにしても、そんなに何度も押さなくても良いのではないか。

ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。

なおも立て続けに鳴らされるインターホン。

もしや子供がいたずらをしているのではないか、と思った。

音はだんだん近付いてくる。いや、自分の進む先にその家があるのだ。

ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。

この家だ。そう思った途端、音が止んだ。二階建ての、何の変哲もない家。

元々は白かったであろう壁が、今や空と同じ色をしている。

窓の向こうはがらんどうのように思われた。ここも死んだ家なのだろうか。

しかし。だとすれば、誰が訪ねてきたというのか。それとも、何かの故障なのか。

いや。それ以前に。

この家の扉には、インターホンがない。小窓の開いた木の板に、金属のドアノブがぽつんと付いているだけなのである。

ダメだ。これ以上、ここにいてはいけない。

私は本能に従って、足早にそこを立ち去ることにした。

その背後から――。

ぴんぽーん。

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