やはり出る(青森県) | コワイハナシ47

やはり出る(青森県)

道理でこのベッドだけ、誰にも使われず不自然に空いていた訳だ。

全身を金縛りに遭いながら、当時陸上自衛官だった山内さんは思った。

今、山内さんがいるのは隊舎ではなく、警衛所という建物である。

正門を入ってすぐにあり、来訪者が面会手続きを行うほか、駐屯地の警備に当たる隊員たちの拠点として使われる施設である。警衛所には仮眠所が併設されていて、当直勤務に当たる隊員たちが交代で身体を休めることができるようになっている。

「ああ、別に気にしなくていいから」

先輩隊員は確かにそう言ったはずではなかったか。よくある奴だから、と。

ベッドの枕元の直上、壁に古びた御札が貼ってあったのだ。陽に灼けて字は少しばかり薄くなってはいるが、どこかの寺社で受けてきたと思われる厄除の御札である。

確かに――。駐屯地内には、それとなく御札が貼られていることがあった。敢えてその由縁を調べるような真似はしないけれども。

だから気にせず、言われるがままにそのベッドを使わせてもらうことにした。

窓から見える外は仄明るい。朝は近い。まさかこんな時間に金縛りに遭うとは。

足元に何か硬くて重たいものが載っているのが、気になって仕方がない。

手足も首も、寸分たりとも動かすことはかなわない。

演習中に斥候をするように、目だけをギョロリと動かしてそっと足元に目を凝らす。

直方体。子供の背丈ほどの大きさの。開き戸が付いていて、黒く塗られた――。

仏壇である。

仏壇が、自分の足の上に載っているのだ。理由は当然分からない。

ガタガタガタッ。突如、仏壇が音を立てた。

弾け飛ばんばかりに、右へ左へ上へ下へとその身を揺らしている。

ガタガタッ、ガタガタガタガタッ。おまけにこちらへ近付いてくるではないか。

足元から膝、太もも、腹へ。膝行るように、じわりじわりと距離を縮めてくる。

バタン!爆ぜるが如く仏壇の扉が開く。中から飛び出す黒い塊。

老婆である。血まみれである。吊り上がった目に、むき出しの歯。

老婆は両手を山内さんの首に回すと、力いっぱいに締め始めた。

何事か口走っているが、何を言っているのか聞き取れない。

抵抗しようと思っても、相も変わらず身体がピクリともしない。

皮膚に指が食い込む。血流が止まっていく。酸素の供給が滞り、意識が薄くなる。

気付くと、朝であった。

仏壇も老婆も跡形もなく消えていたが、首には老婆の指の感覚が未だに残っていた。

やはりあの御札は、「気にしなくていい」ものなどではなかったのだ。

早々に、墨痕も鮮やかな新たな御札を壁に貼る。すると。

壁一枚隔てた消防隊の詰め所に仏壇が現れたという。勿論、老婆も。

青森駐屯地での出来事である。

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