阿蘇大橋で必ず起きる車のトラブル(熊本県阿蘇郡南阿蘇村) | コワイハナシ47

阿蘇大橋で必ず起きる車のトラブル(熊本県阿蘇郡南阿蘇村)

二〇一六年四月十四日に発生した熊本地震によって崩落した「阿蘇大橋」。

交通の要所として、また、観光名所として多くの人が集まる熊本の名所であったが、この橋にはもう一つの顔があった。それは「自殺の名所」と言う意味だ。

今までに百人以上の人間が飛び降りているとも言われており、九州でも有数の自殺の名所となっていた。そのため、心霊スポットと呼ばれ、夜になると肝試しに来る若者が絶えない場所でもあったのだが、この場所には確かに人を引きずり込む魔力のようなものがあると、私自身の体験からそう考えていた。

時は二〇〇九年に遡ぼる。当時、私は飲食チェーンの店長として熊本市内の店舗に異動することが決まり、初めて福岡以外の土地に住むことになった。近隣店舗の社員とはたまに飲みに行くこともあったのだが、私の大好きな心霊スポット巡りに行きましょう!とは言えずに、休みの前日になると一人寂しく熊本中の心霊スポットをまわるという日々を送っていた。

西南戦争の激戦区である熊本には、田原坂や吉次峠などの戦争に纏わる場所や、有名な廃病院、熊本最恐と言われる「旧佐敷トンネル」、果ては殺人事件があってからそのまま放置されている廃屋など、心霊スポットの宝庫で、繁忙期には朝六時〜深夜二十四時くらいまで店舗にいなければならないというストレスまみれの生活も、次はどこの心霊スポットに行こうかと考えながら、ワクワクすることによって乗り越えることができた。

その中でも、当時一番通ったのは阿蘇大橋だった。

熊本市内に住んでいたため、ドライブとしても丁度良い距離だし、夜の山中にかかる大きな橋をぼんやり眺めていると、小さな悩みなんて川底に落ちていってしまうような気がして、足繁く通っていた。

しかし、この橋を夜中に訪れると、毎回何やらトラブルが起こっているのを目にするのだ。

一回目、私は橋の近くの駐車場に車を停めて、ライトアップされたその全景を眺めていたのだが、橋のど真ん中に車が停まっている。肝試しに来た若者かと思ったが、先にも述べた通り、阿蘇大橋は交通の要所であり、深夜でもトラック等はひっきりなしに通る場所である。こんなところに車を停めてどれだけ常識がないやつなんだ!と憤っていると、中から人が出てきて、携帯電話で何やら話をしている。

そして、車の周りをおろおろと動き回ったかと思うと、おもむろに車を押し始めた。しばらくしてやってきた後続車がそれに気づき、車を停めると外に出て一緒に車を押しているではないか。そう、肝試しをしているのではなくて、どうやら橋のど真ん中でエンストしたらしいのだ。よく、心霊スポットに行くと車が動かなくなるなんて言うが、私が見たのはまさにそんな光景だった。

数週間後、二回目に阿蘇大橋を訪れた私は、前回と同じ駐車場に車を停めて、同じ様に橋を眺めながら黄昏れていた。橋の手前には信号機があり、橋を渡るには信号を右に曲がらなければならず、その時は深夜にもかかわらず数台の車が橋へと続く車線で信号待ちをしていた。

信号は青になったのだが、一番前に停まっていた、黒塗りの「いかにも」なハイエースは動かない。

業を煮やした後続のセダンが、強めにクラクションを鳴らす。

プーーーー!

ハッとしたかのように動き出すハイエース。

だが、その後は予想通りの展開が待っていた。

「オリャーー! お前、喧嘩売っとるんかぁ!!」

ハイエースは橋のど真ん中で車を停めて、降りてきた大柄でスキンヘッドの運転手が、後続のセダンの運転手に文句を言っている。先ほどのクラクションの鳴らし方が気に入らなかったようだ。

「てめぇが行かねぇからだろうがよ!」

セダンの運転手もなかなか気の強い人のようで、窓を開けて大声で言い返している。

(やってんなぁ)

冷めた眼差しを向けていた私だが、ふと、あることに気づいた。

(この前も橋の真ん中で車が停まっとったし、今日も真ん中で車が停まっとう。これなんかあるんやない?)

事故多発現場や自殺の名所と言われるような場所には、引きずり込もうとしてくる悪霊がいると言うが、私の目の前で毎回起こっているこのトラブルこそ、まさにそういった類の者の仕業ではないのか?

次は、自分が試してみよう。

そう決意した私は、おっちゃん達の喧嘩を眺めた後、帰路に就いた。ちなみに、おっちゃん達は散々言い合ったらスッキリしたらしく、最後は握手をして帰って行った。

喧嘩の観戦から数週間後、私は改めて単身で阿蘇大橋へと車を走らせた。

今までは橋の手前に車を停めて眺めたり、そこから徒歩で橋の上を歩いたりしていただけなのだが、今回は、私が見てきたトラブルに合っている人たちと同じように、車で橋を往復するという作戦に出ることにした。

信号は赤、深呼吸して青にあるのを待つ。しばらくして青になると、緊張感を持ちつつ車を橋へと突入させる。心臓が高鳴り、アクセルを踏み込む足に力が入る。全長約二百六メートルの橋は、車だとあっという間に通り過ぎてしまう。異常は無い。

(ふぅ)

溜息を吐きだし、安堵とともに残念な気持ちが込み上げてくる。

(なにかあればネタになったのに)

そこで多くの人が亡くなっているということを忘れ、好奇心を抑えきれずに不謹慎なことを考えてしまった私にバチが当たったのだろうか。帰り道で問題は発生した。

何事もなく今日も終わると信じ込み、音楽を流しながら軽快に橋上を走っている時だった。

バン!

橋の真ん中あたりで、何かを踏んだような衝撃と、鈍い音。

(え?嘘!?なんやろ?)

頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。とりあえず橋を走り抜け、いつも車を停めていた駐車場に入ると、外に降りてタイヤを確認した。

(うわ! パンクしとう!)

釘などは刺さっていなかったのだが、前輪は片方空気が抜けてプヨプヨになっている。応急処置として、スペアタイヤに換えて何とか帰ることはできたのだが、遂に私自身にもトラブルが降りかかってしまった。

結局のところ、私が見てきたものは全て偶然だったのか、はたまた、悪霊のようなものの力が働いているせいだったのかはわからないままだ。

しかし、阿蘇大橋は二〇二〇年度を目途にコンクリート橋として復旧される予定なのだそうで、復旧された後、この橋がどうなっていくのか、しっかりと行く末を見守っていこうと思う。

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