隣怪(福島県) | コワイハナシ47

隣怪(福島県)

昔、実家の隣に廃屋があってね。福島県で建設業を営む野村さんはそう切り出した。

元々は小料理屋だったらしいんだけど、物心付いたときにはあばら家でさ。

柱は傾いてるし、屋根瓦は半分落ちてるし、壁も腐って穴が開いていて。

でもまだ人は住んでるから、正確に言えば廃屋ではないんだな。

その地所を半分、うちの会社で買い取ったのさ。駐車場にしようと思って。

家の過半を解体することになったんだけど、それは勿論自社で。

家主は、壊さず残した区画にそのまま住んでもらう計画でさ。

工事の話が進んできたある日、お袋が変なことを言うんだよ。

「これ持ってあの家の中に撒いてこい」って。スプレータイプの除菌剤渡して。

あれに除霊の効果があるっていう話は知ってたよ。でも、どうせ後からちゃんと坊さんに来てもらうんだし、別に今やらなくてもいいじゃないかとは思った。

でもまぁ、スプレー持って家の中に入る訳さ。早くやってこいってお袋もうるさいし。

日中なのに、家の中は真っ暗で。電気の回線を切ってしまったから、というのもあるのだろうけれど、理由はそれだけだったかどうか。

一歩足を進めるごとに埃がぶわっと舞ってね。かび臭い空気が漂っていて。

さあ、さっさと撒いてやろうとスプレーを構えたら、指が動かないのさ。

脳からの信号が届いていないというか、全く思いどおりにならなくて。

もう片方の手で指を剥がして再挑戦するんだけど、そっちもすぐ動かなくなって。

右に左にと持ち替えながら一階、二階と回って戻ってくると、一階に一箇所まだ開けてない扉があることに気が付いたのさ。

造りからして、便所だろうとは思った。

開けてみると、案の定な訳。でもそこがほんと異様な空間でさ。

ただの便所なんだよ?タイル貼りの空間に、水洗便器が据えてあるだけの。

それなのに、周りの暗闇よりももっと黒いような、饐えた臭いのする空気がもくもくと湧き出してきて、意図を持って僕の身体にまとわりついてくるようなそんな感じ。

逃れたい一心で、とにかくスプレーを撒いて帰ってきたんだよ。

それをお袋に話すと、「ああ、やっぱりね」なんて言うのさ。

理由を訊いたら、こんなことを話し始めたんだよね。

――お昼に、二階のベランダで煙草吸ってたのよ。そしたらさ。

目と鼻の先のあの家の二階に、小太りの男がいるんだよ。

陽も満足に射し込まない暗い暗い部屋に、ぼうっと立って。

無表情のまま、あらぬほうをじいっと見つめて。

すぐに「ああ、こりゃあまずい」と気付いたのよ。

その立ってた場所というのが、さっきおまえが言ってたトイレの真上。

あれは「この場所が危ない」って教えてくれてたんだねぇ。

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