白黒画面(大阪府) | コワイハナシ47

白黒画面(大阪府)

白黒画面

打ち上げがもう終わるという時、スタッフのTさんがちょっと気になることがあったんですと寄ってきた。

舞台の脇にモニターが三台ある。

ひとつは舞台の模様をとらえるためのもの。あとのふたつは安全、保安のための監視用モノクロモニターで、ひとつは会場内、ひとつはロビーの様子を映し出していた。

リハーサルの時、Tさんはこのモニターの前にいた。

そのひとつが舞台の上の中山とスタッフ全員を映している。

亡くなった女性への黙禱の手順を説明している。

……東京でそんなことがあったんだなどと思いながら見ていると、何か動く姿が映った。

ロビーを映しているモニターに、いつの間にか誰かが背を向けて立っている。

誰だろう。短い髪を後ろでまとめている。どうやら女性のようだ。

あれ?そういえばスタッフは全員舞台上に集まっているし、開場はしていないからロビーは無人のはず……。

お客さんにしても早すぎる。いったい誰だろう?

その女性が奥へとつかつかと歩きだした。

会場に入るようだ、と思ってぎょっとした。

白黒画面なのに女性の服が赤い。

どう見ても白黒画面の中を、服だけ赤い女性が歩いている。

カメラは会場に入ろうとしているその姿を映していた。

なんだこれは?

ロビーのモニターを通り過ぎたので、隣の会場監視モニターを見た。

……。

入ってこない?え?どうして?

ロビーを過ぎたということは次の会場カメラがとらえるはずだ。

……。

いつまでたってもどちらにも映らない。

「私、こんなのはじめて見たので、その……」

聞いていたまわりの人たちが沈黙した。

ロビーの女性(大阪府岸和田市)

赤い服の女性の話をそばでじっと聞いていた、中山が所属する事務所のO社長が「ちょっとよろしいか?」と口を開いた。

トークショーの本番がはじまると社長は舞台脇に立って、三つのモニターと舞台とを交互に見ていた。

舞台の終盤が近づいた時だった。

なにげなく見たモニターのひとつに釘付けになった。

ロビーをとらえているモニターの画面上に足が映っている。

「ありゃ、もう終わりやのに誰か来てはるわ」

しかし入口は閉まっているし、トイレに出た人もなかったのに、どこから来たのかと思っていると、画面からいきなり足が消えた。

なんやこれ故障かいな?と思ってそのまま無人のロビーを見つめていると、画面下から短い髪を後ろでまとめた女性が入ってきた。

「やっぱり入口の扉、開いとんなぁ」

次の人がまた入ってきたのか?と思った瞬間、消えた。

あれ?これも故障……?

いきなり画面中央を歩く女性の後ろ姿が現れた。髪型がまったく同じだ。

少し歩くとその全身が消えて、画面の上に足だけが現れた。

立っている場所と靴が最初とまったく同じだ。

これ機械がおかしいんだろか?それともこの女の人が変なんだろか?

その女の人がさっきからずっと同じ人だと気がついた。途端に背すじが寒くなった。

そうなるともう画面から目が離れない。

足が再び消えた。

無人のロビー。

女性が歩いて画面に入ってきて消える。

中央に全身が現れて少し歩くと消える。

画面の上にその足だけが現れて消える。

それを何回も繰り返した。

「あっ、出えへんようになった」

やっと安心して舞台を見ると、中山の「本日はどうもありがとうございました」の声が聞こえた。

服こそ赤くなかったが、さっきの話の女性と髪型が同じだった。

いつの間にか、打ち上げの席が静まりかえっていた。

黙禱

翌月。新宿で開催している『新耳袋』の怪談会で、亡くなった女性の友人ふたりを見つけた。

私はふたりに岸和田のホールで起こった一連の出来事を話した。

それ、あの子です、とふたりは目を潤ませた。

彼女は、赤い服が大好きだったという。

仏壇にある写真も赤い着物姿だ。

その仏間には生前着ていた赤い服が何着も掛けてあるという。

ご両親は、赤が好きだったことから、彼女の墓を赤味がかった御み影かげ石いしで造った。

ふたりは、今日は彼女と一緒に怪談を聞きに来ましたと言って、バッグの中から額をとり出し、彼女を紹介してくれた。

動かぬその人は髪の毛を後ろでまとめて赤い服を着ている。

……。

言葉が見つからない。

やっぱり中山さんのところに行ったのね。

ふたりはそう言って、彼女に手を合わせた。

私たちも手を合わせた。

この日の怪談会は、彼女への黙禱から幕を開けた。

現在も彼女は友人たちと共に会場を訪れて連続参加記録を更新している。

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