同じ傷(東北地方) | コワイハナシ47

同じ傷(東北地方)

Tさんは本書の愛読者だという。

ある日、扶桑社版の『新・耳・袋』を古本屋で買って帰った。

〝一晩で百物語を完読すると怪異が起きる〟ということを期待して、実行の日を楽しみにしていた。

それは、当時の本書が全百話を収録していたからだった。

しばらくして奥さんとふたりの子供を連れて北陸の温泉に家族旅行に出かけた。

その旅館でのこと。

家族が寝静まったので、Tさんはバッグから本を取り出して、二時間ほどで完読した。

しばらく待ったが、何も起こらない。

百物語といえども、しょせん本は本か、と落胆した。

さて、寝るかと枕元のスイッチに手を伸ばした時だった。

部屋の明るさが変わっているのに気がついた。

見ると、この部屋の横にまったく同じ部屋が見える。布団も四組並んでいる。

あの壁、鏡だっけ?

どう見ても部屋が対称に映り込んでいる。いくらなんでも和室の大鏡を見落とすわけはないだろうと、注意して見直した。

明かりの反射がないし、奥行きがある。

ぎょっとした。

鏡ならそれを見つめているはずの自分の顔が映るはずだが、ない。

もうひとりの自分は布団の中で家族と一緒に寝ている。その上、寝息までが聞こえてくる。

ひょっとして壁の向こうにも同じ部屋があって、うちの家族がいるってことか?

怖いというより好奇心が湧いた。

そっと布団を抜け出てみたが、もうひとりの自分はやはり動かない。

そのままそっと近づいて、壁だったはずの部屋の境目に手を入れてみる。

入った!

そのまま入って四組の布団をのぞいてみた。確かにわが家族が寝ている。

振り返ると自分の出た抜け殻の布団と、奥さん、子供ふたりの寝ている布団がある。

何度もふたつの部屋を見比べてみた。

自分は確かにここにいるのに、布団の中にも寝ている自分がいる。その布団をめくってみた。

自分が背を向けて寝ている。

同じ髪形、体型、浴衣。

「やっぱり俺じゃん」

顔をのぞき込んでみた。

目も鼻も口も、何もない。

その顔を前に呆然としてしまった。

そうだ、夢だ。そうに決まっている。本を読み終わったあとに寝たんだ、きっと。

夢ならば覚めろとばかりに、立ち上がって自分の顔を蹴けとばしてみた。するとそれほど力を入れたわけではなかったのに、まるで水の入った氷のうを蹴とばしたように足がかかとまで吞のみこまれた。

気づくと布団の中で朝を迎えていた。

どうも夢を見ていたらしい、と思った。

おはようと、起き出した奥さんの額に傷がある。

まさかと思って子供の顔を見ると、ふたりとも額に同じ傷がある。

「お前たち、その傷どうしたんだ?」

「それよりあなたの額、どうしたの?」と奥さん。

鏡を見ると、自分の額にも同じ傷があった。

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