近道(兵庫県神戸市) | コワイハナシ47

近道(兵庫県神戸市)

「近道を見つけたぞ」

Aさんは、会社で先輩のHさんにそう言われた。

ふたりは車で神戸市内へ通勤しているが、家が近くなので同じ道を使っている。

「その近道使つこたらな、会社まで早よ行けるで。あしたその道教えたるわ」

先輩は得意になっている。

翌朝、Aさんは先輩の車について行った。

いつもの渋滞の道だ。

いつものまんまやなぁと近道のことなど忘れていた。

ところが、いつも抜けるトンネルの直前になって、先輩の車が急に方向を変えた。

Aさんも合わせるようにハンドルをきった。

狭い下り坂が前に現れた。

「え?ここに道なんかあったか?」

先輩の車を追うようにして道を下りきった。と、視界が広がった。

なんやここ?

あたり一面、ザラついた白黒写真のような世界。

まったく色がない。前を行く先輩の車の青だけがある。

道に沿って廃工場やボロボロの空き家が続いている。朝だというのに車も人の姿もまったくない灰色の風景。

先輩の車が橋を渡っていく。

Aさんも橋を渡った。その先は上り坂。

そこを上りかけると、にわかに風景が色づいて鮮やかさが戻り、人も車も視界に入ってきた。

安心した時には会社の正面が見えた。

その橋は会社の休憩室からも見える。それにその向こうにある工場も操業している。

今朝はこの景色の中を通ったんやろか?

先輩は今も近道を使って通勤している。

Aさんはなんとなく別の世界を通り抜けるような気がして、もう通る気はないという。

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