水音(大阪府) | コワイハナシ47

水音(大阪府)

ある年の大晦日のこと。

大阪で働いているTさんが、実家へ帰るために松山行きのフェリーに乗った。

船上で新年を迎えるのははじめてのことだ。

年末ともなると、いつもすし詰めで雑魚寝を余儀なくさせられるほどごった返す二等客室が、大晦日のその日はTさんひとりの貸切りのように、人がいなかった。

ところが、出港して間もなく団体客が入ってきた。子供連れの親子に老人やカップル。急に客室が狭くなったので、Tさんは客室の隅に移動して酒を飲んで寝た。

ふと目が覚めた。時計を見ると三時。

年が明けたか……。

そう思ってまわりを見た。明かりが消えた客室に、あれほどいた団体客がひとりも見あたらない。

妙に思って客室を出ると、どこかから笑い声が聞こえてくる。

宴会でもしてるのかな……正月だしな。

酔いざましに冷たい夜風にあたろうと甲板に出た。

見覚えがあるカップルがいる。同室の客だ。

Tさんは少し離れたデッキで煙草に火をつけた。

ドッポーン。

人が飛び込んだような大きな音がした。

横を見るとカップルが海をのぞき込んでいる。

Tさんも駆け寄って「今、何か大きなものが落ちました?」と聞くと「ええ、何でしょう」とカップルも首をかしげている。

ドッポーン。

また何かが飛び込んだ。

「今の音、どこです?」

尋ねようとしたらカップルがいない。

えっ?

甲板を見回したが、誰もいない。

するとあちこちから、

ドッポーン

ドッポーン

ドッポーン

ドッポーン

……

水音から逃げるように客室に戻って、頭から毛布をかぶった。

気がつくと朝になっている。

いつの間に寝たんだろうと思いながら、あたりを見渡してギョッとした。

まだ船は港に着いていないのに、あれほどいた他の客が誰もいない。荷物すら見あたらない。

松山港で降りたのは、Tさんと別の客室の客がほんの数人だけだった。

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