庭の主(東京都) | コワイハナシ47

庭の主(東京都)

ある人が定年退職を機に都内のマンションを引き払い、郊外にある一戸建ての借家に移り住んだ。

郊外の静けさや空気の良さを求めてのことだったが、何より子供の頃を思い出させるような木造一戸建ての持つ雰囲気を恋しがる歳になったのが理由だという。

引っ越してまもなく、次々と友人が訪ねてきた。お祝いもあったろうが、何度も来る人もいるので、みんなこんな家を望んでいるのかなと思い少しうれしかった。

ある日、ギャンギャンと外から犬の声がする。

何かに向かってほえるというより、脅えて嫌がっているように聞こえる。

あれ?止まったと思うと、玄関から声がする。出てみると、犬を抱いた友人が立っている。

この犬の声なのか?あんなにほえていたのに、今は声ひとつ上げず静かになっている。

友人が、玄関までが大変だったと言う。

まるでこの家に入るのを恐がっているようだったという。

そういえばこの犬は、抱かれているというより友人にしがみついている。

客間に入ってもなお犬はぶるぶる震えて友人の側にはりつくようにして座っている。

そのうち友人がちょっとトイレにと立ち上がった途端、犬はキャウーンと鳴いて一メートルほどの高さまで飛び上がり、失禁してしまった。

その年の夏。お祭りで金魚を五匹ほどすくってきた。

水槽を買ってきて中に入れると、すごい早さで泳ぎ回る。

まぁ水に慣れていないからだろうと思っていたが、二、三日たってもバチャバチャとはね回るし、エサもあまり食べない。

五日もすると一度に全部死んでしまった。

庭に埋めてやろうと十センチほど穴を掘ったところで、握り拳こぶし大だいの河原にあるような丸石がひとつ出てきた。

それをどけて金魚を埋め、その石を墓石の代わりに置いた。

仕方ない、今度は小鳥でも飼うか、と水槽やエサを買っているペットショップに行くと、店主が魚の次は鳥ですか?と声をかけてきたので金魚の話をした。

すると急に顔を曇らせて、「あなたひょっとして……」と家の場所を言い当てた。

どうしてわかるんですか?と聞くと、あの家では小さなペットは長く生きないし鼠すら出ないという。

思い当たることがあった。

このあたりはどこにでも小鳥がいて賑にぎやかなのに、自分の家の庭に雀が降りてきたりする姿を見たことがない。

気味が悪くなったのでペットは諦めて、庭いじりでもしようと花や野菜の種を買って帰った。

まずは土おこしだ、と大きなシャベルで土を掘りはじめると、あちこちから丸石が出てくる。

掘り出して庭の端に十個ほど放り投げているうちに、妙なことに気がついた。

どうして同じ深さに河原の丸石があるのだろう?

それも、石の層があるというわけではなく一個出てくると下はまた土だ。そして穴を横に広げるとまた石にぶつかる。

河原にあるような石だから、もとからここにあるものではない。人が埋めたものだ。

ひょっとして庭中の下にはいたるところに石が……?そう思って手が止まった。

作業をやめて家に上がり、テレビをつけた。チャンネルを変えると画面が切り替わる瞬間、にゃあと猫の声が入った。

気のせいか?

リモコンで次々と局を替えると、そのたびににゃあ、にゃあー、にゃうーと聞こえた。

鳴き声が、少しずつ違っている。

朝にはこんなことはなかった。どうして?

はっと振り返って、たくさんの庭の丸石を見た。

石のずっと下にはひょっとして猫が……と考えがよぎると怖くなったのであわてて庭に降りて石を元に戻した。

金魚の石も元に埋め直した。

作業を終える頃には日が暮れていた。

このあとテレビから猫の声が聞こえることは二度となかったという。

この人は今も同じ家に住んでいる。

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