手さぐり(東京都) | コワイハナシ47

手さぐり(東京都)

東京、それも都心部での話。

今から三十八年前、Mさんが高校に入学した頃だった。

夜、本棚を整理している最中、あやまって貯金箱を落とした。

今までも何度も落としているので、まあ割れはしないだろうと思ったが、鈍い音と共にあたりに硬貨が飛び散った。

どうやら中身がいっぱいになっていたので、これまでのように無事ではすまなかったようだ。

割れた破片を集め、細かな見落としもないようにと畳の上を三度も雑巾をかけた。

それにしても、机の上には思いもかけず硬貨の山ができたので、しばしの間お金持ちの気持ちを味わった。

とりあえずお金は机にしまって、床をとることにした。

貯金箱の後片付けに思っていた以上に時間を取られたので、寝ることにしたのだ。

真夜中、布団の上を誰かになでるようにさわられて、はっと目が覚めた。

目の前を白くて丸いものが右や左に、上に下にせわしなく動いている。

汗の臭いがプンと鼻をついた。

男の人がいる、と思って大声でお父さんを呼んだ。

お父さんはすぐに来てくれたが、それよりも早く白くて丸いものは消えている。

どうした?と言うお父さんには夢を見たとごまかした。

そう思いたい気持ちも強かったし、なにより明るくなった部屋には何もいなかったので、説明しづらかったのだ。

ところが翌日の夜にもそれは現れた。

気が高ぶっていたので寝つけないでいると、汗の臭いがして目の前に白くて丸いものが浮かび上がった。

昨日より、はっきり見える。

お父さん、来て!

やはりお父さんが来る前に消えてしまったが、臭いはわずかに残っていた。

夢でも気のせいでもない。

Mさんは今見たものを話した。

着物姿のお坊さんのようなものが現れて、腕を大きく振ってまるで何かを探すように畳の上や布団の上をなでるようにさすっていた。

姿のすべて、何もかもが真っ白だった。

昨日の丸くて白いものは多分、目鼻こそわからなかったがお坊さんの顔だった。

お坊さん?とお父さんはいぶかりながらも布団の上に座ると、こんな感じだったか?とMさんの言う通りに真似てみた。

Mさんも見たままのしぐさに思えるまで、何度もお父さんと一緒にその動きを再現してみた。

あっそんな感じ、と言うとお父さんはずいぶん考え込んで「ひょっとするとあれか」などとつぶやいた。そして、とりあえずお母さんと寝なさいと言ってふたりで部屋を出た。

翌朝、お父さんは「今夜で終わるぞ」と言い残して出社していった。

夜、お父さんはMさんの布団の上に和紙を小さくひねり包んだものをポトッと落とすと、これで大丈夫、と言って部屋を出た。

とは言われても、やはり寝られない。怖くもあるし、何よりお父さんの言うことが信用しきれない。

その時、フッと汗の臭いが鼻をついた。

でっ出た!お父さんの噓つき!と頭の中でお父さんをののしった。

ところが白いお坊さんの動きがピタリと止まり、先ほどお父さんが落としたものを取り上げて両手ではさみ、その手を拝むように上へ下へと振ると、消えてなくなった。

臭いも残っていない。

「お父さん!お父さん!消えた」と呼ぶとお父さんが入ってきた。

「消えたか!」

「お父さん、あれ何?お守りか何か?」と聞くと、「一いち分ぶ銀ぎん」と答えた。

「何それ?」

「神かん田だのコインセンターで買ってきた。高かったんだぞ」

よくわからない。

「一分銀ってお金でしょ、昔の。どうしてお金なの?」

「いや、ただの勘だけど……必死で下を探している様子だったから、ひょっとしてお金でも落としたんじゃないかと思って。探そうにも目が見えないだろ」

「どうして見えないの?」

「そりゃ目の見えない按あん摩まさんだから。多分お坊さんじゃない」

「どうして按摩さんだとわかったの?」

「動作を真似てさ。時代劇で見たことがないか?なんとなくお坊さんの着物じゃなさそうだし、だいいち、目が見える人は横や上をキョロキョロせずに、下を向いて探すだろ」

そう言って、自分で解決したのが嬉うれしいのか、ニコニコしながら部屋を出ていった。

お父さんの言っていたことが正しいかどうかはともかく、後で部屋の中を探してみたが、一分銀も和紙も結局見つからなかった。

Mさんは「お金と聞いて、貯金箱を落としたこととなんとなく結びついてから、本当に怖くなりました」と言った。

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