京都在住のある人が小学生だった頃の話。
六月のある日のこと、クラスのみんなで集まってある友だちの家に遊びにいった。
その子の家は家というよりもずっとずっと大きなお屋敷だったので大人数で押しかけても隠れんぼや鬼ごっこができた。
みんな長く続く梅雨の雨で体を持てあましていたのだ。
もう四日も続けて遊びに来ていた。
五日目のことだった。
隠れんぼをしていて客間のひとつに入った。
すぐに押し入れを開けて、布団の隙間にもぐり込んだ。
襖を閉めようとした時、ずれた天井板の隙間から赤い幅の広い帯のような布がぶら下がっているのを見た。
なんだろう?部屋に入った時にはなかったのに、と思いながら襖を閉めて隠れた。
ほどなく鬼だったこの家の子に見つかってしまった。自分の家だけに隠れ場所のツボを知っていて見つけるのが早い。
見上げると赤い帯のような布がない。
不思議に思ってその子に聞くと、ぱっと明るい顔になって「それな、〝にしき〟ゆうて家うちの家宝なんや、お前運がええなぁ」と言う。
「え、家宝?赤い帯みたいなんが天井からぶら下がってただけやのに?」と尋ね返した。
「この部屋な、〝にしきを見はったの部屋〟言うてお客さんだけがそれ見はるねんで」と言う。
お母さんがおやつを用意してくれて、みんなでご馳ち走そうになっているとその友だちが、お母さんにさっきの話を聞かせた。
それを聞いていた他のみんなも、それなら私も、僕も、前に見たよと言いだした。
ニコニコしながら「それはよろしおましたなぁ、あれは家の家宝なんよ」と同じことを言う。
みんな同じ部屋で同じものを見ていた。しかし現れた天井の場所と長さだけが違っていた。
隅だったり中央だったり短く見えたり、下の畳に着くほど長かったりという具合だ。
そして、気がつくと布が消えている。
友だちは「なっ〝にしきを見はったの部屋〟って本当やろ?」と得意満面だった。