ひょこひょこ(埼玉県所沢市) | コワイハナシ47

ひょこひょこ(埼玉県所沢市)

ひょこひょこ

「二十年ほど前、私が小学校五年生のある時期にだけ、妙なことがあったんです」と所沢に住む主婦の方が聞かせてくれた。

彼女はとても怖がりで、五年生になっても夜中にひとりでトイレに行けなかった。必ず隣に寝ているお母さんに付いて行ってもらっていたという。

夏の夜のこと。

トイレに行きたくて目が覚めた。

「お母さん、お母さん」

肩を揺するが起きてくれない。

「ねえ、お母さん」

どうしようと顔を上げると、隣の部屋とを隔てる四枚の襖が目に入った。

その襖にはそれぞれ数本の笹が描かれている。一番端の襖に描いてある笹の間から、見たことのない老人が歩いて出てきた。

あれ?ここにこんなおじいさんの絵があったかな?

老人は籠を背負っている。ひょこひょこと三枚の襖の中を横断して一番端まで行くと、よっと身を屈めて笹を一本引き抜き籠の中に入れた。

「どうして絵に描いた笹が抜けるの?」

絵のおじいさんが動くことより、笹が引き抜かれたことに驚いた。その間にも老人は笹を抜いては次々と籠に入れていく。

とうとう襖の笹をすっかり抜いて、あとには無地の襖が残った。

老人はくるっと身を返して、ひょこひょこと歩き出すと、出て来た元の襖の黒い木枠の中に消えた。

その途端怖くなった。

「お母さん、お母さん!」

「どうしたの」とやっとお母さんが起きてくれた。

「今ね」と襖の絵の話をするが、信じてくれない。

だってほら、と襖を指すと、抜かれたはずの笹の絵はちゃんとそこにあった。

ぷかぷか

それから二週間ほどたった夜中のこと。

その晩もトイレに目が覚めてお母さんを起こした。

この晩は起きてくれて、無事トイレをすませた。

部屋に戻ると今度はお母さんが「私も」と廊下に出てしまった。

彼女ひとり部屋に残されて心細く思っていると、廊下の障子に入ったガラスの向こうで何かが四つ光っている。

何かな?

と、ガラスをすり抜けて桃色に光るボールのようなものが四つ現れた。

ぷかぷか浮いている。

何これ?

ゆっくりゆっくり近づいてきて、目の前でピタリと止まった。

その途端、「お~ば~け~だ~ぞ~」という声が部屋中に響いた。

ぎゃあー。

彼女の悲鳴にお母さんが飛んできてくれた。

泣きながら話すと「またバカなこと言って」と一笑に付された。

しかしあの声は今だに忘れられない。

低い男性の声を機械で高くしたような声だった。

キラキラ

それから一カ月。

夜中に目が覚めた。トイレだ。

目が自然と笹の絵がある襖に行く。老人の姿はない。

ガラス障子を見回す。桃色のボールもない。

じゃあお母さんを起こそうかな、と思って起き上がると、頭の上から風が吹いて、髪が乱れた。ふり仰ぐと天井がキラキラ光っている。

満天の星。

星?星だ、星がある。

わぁ、きれい。

でもこのお星様は何?

そうだ、それよりお母さんを起こして見せてあげなきゃ。

「お母さん、お母さん」

「うん……どうしたの、またトイレ?」

「うん、でもほら天井にお星様が、ほら」

見上げると、何もない。

それからは何も怪しいことが起こらなくなったという。

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