Yさんのお祖父さんが亡くなった時のこと。
親族が集まって遺産相続の話になった。
Yさんのお父さんは長男であることを強く主張して、お祖父さんがひとりで住んでいた奈良県の山奥にある家の権利だけを得た。
それがYさんにとっては大きな不満だった。
広いとはいえかなり古い田舎の家だ。あんな家をもらってもしょうがない。
だいたい、今住んでいる自分の家がある訳だから、そこに住むはずがない。
なんであんな金にもならない家を欲しがったんだよ。それよりお金もらった方がよかったのに、と苦言を呈した。
するとお父さんから「あの家はな、Y家の本家や。継ぐべき人間が継がなあかん。わしが死んだら家長たるお前があの家を守るんやさかい。だいたいお前、あの家の広間で寝たことないやろ。寝たらわかるから」と言われた。
ある日、Yさんはお父さんと一緒にその田舎の家に行った。
十二畳の大広間でYさんをひとりで寝かせるためだけに来たのだ。
ひとりで寝るにはあまりに広すぎてなかなか寝つけずにいた。
いつの間に眠ったのか、夜中、パアッとまぶしい輝きに目が覚めた。
天井が明るい。欄間のあたりからまぶしいほどの金色の光の筋が出ている。
その光の中から龍の頭がヌッと出た。かと思うと、ズズズズズッと長い長い龍の身体がそれに続いた。
あまりの長さに大広間に入りきらないからか、天井にぐるりぐるりと金色のとぐろが巻かれていく。
龍の金の鱗うろこが光り輝いている。うねらせた全身から鱗がピシッパシッと音をたてて、金きん箔ぱくのような破片を落としている。
硬い身体をやわらかくしているんだYさんは思った。
こんなすごいものを見ているのに、そんな見当違いのことを考えた。
Yさんは、光と龍に圧倒されて声を出すこともできずに、ただただそれに見とれた。
やがて欄間から尾の先が抜けきった瞬間、龍が天を向いて、天井の真ん中に吸い込まれていった。
龍がいなくなると、部屋は真っ暗に戻った。
翌朝、お父さんにそのことを言うと「わしも祖父さんもみんな見た。だから、あの家を潰つぶすことはできん。あれは本家の守り神なんや」と言われた。
それはY家の長男にしか見えないものだという。