十五年前、広島市のCさん一家に起こった話だ。
小学校二年の時、家族でその家に引っ越した。
一年を過ぎようとしたある夜。
ガチャガチャガチャガチャ、カカカカ……。
誰かが玄関のドアノブを押したり引いたりしている。
「どなた?」とお母さんが玄関まで行くと、ピタッとやんだ。
「誰だろ」とのぞき穴から外を見るが誰もいない。が、お母さんが居間に戻るとまたガチャガチャガチャガチャ、カカカカ……。また玄関へ行くとやんだ。
十分間、その音は続いた。
翌日の夜も、同じことが起こった。
そして、その次の夜も。
その日は、話を聞いたお父さんが早く帰っていた。
玄関で音がしだしたので、急いでドアを開けたが、誰もいない。
これを何度かくり返したあげく「誰だあ!」と大声で怒鳴った。
あまりの大声に驚いた隣のおばさんが、様子を見にきたほどである。
わけを話すと「でも、お宅の玄関の前には誰もいませんでしたよ」と言われ、家族はゾッとした。
その後もドアの音は毎夜続いたが、そのうちそれが十時十五分きっちりにはじまることに気がついた。
放っておくと十分ほどで音はやむので、お父さんもとうとう「ほっとけほっとけ」と無視するようになった。
十時十五分、また玄関でガチャガチャガチャと音がしだした。
さすがに毎回のことなので気にせず、家族全員でテレビを見ていた。
突然ビデオが作動した。
「誰?ビデオのリモコンさわったのは」
リモコンはテーブルに置いてある。
だいいち、ビデオの電源が入っていない。
表示がまったく光っていないビデオが勝手に作動して、十分で停止した。
翌日は、ドアの音がすると同時にテレビのスイッチが勝手に入った。
そのうち音と同時に電子レンジがブゥーンと作動し、中にバチバチバチッと青い火花を走らせた。
たまらなくなって、十時十五分が近づくとテレビや電子レンジなどの電源コードを抜くようにした。それでも時間になって音がすると、勝手に作動することもあった。
怖くなったお母さんは、時間が近づくと電子レンジの扉を開けっぱなしにするようになった。
こうすると勝手に作動しない。
ところがある夜、玄関で音がすると同時に、ドン!と台所でものすごい音が起こった。
電子レンジが床に落ちている。
「これは、ただ事じゃないな」
さすがのお父さんもそう言った。