コウタ、タモツ、ハジメ。
高校生のヤンキー三人組だ。
その晩は、コウタの家にタモツとハジメが来て、ファミコンで遊んだ。
コウタの部屋は寝泊まりが可能で、タモツに至っては半同棲状態と言っても差し支えがないほど、しょっちゅう寝泊まりしていた。
ゲームは明け方まで続き、そのまま三人は寝てしまった。
コウタはベッド、タモツとハジメは仲良く並んでテレビの前の床を寝床にした。
「タモツ!戻ってこいじゃ!何やこのクソババアよ!」
ハジメはコウタのそんな大声で目を覚ました。
「……なした?」
「このクソババア!やめろ!」
叫びながらコウタは寝ているタモツの上半身を両腕で抱えて引っ張っている。
「戻ってこい!タモツ戻ってこいじゃ!」
ハジメは唖然としてことの成り行きを見守った。訳が分からないので、掛ける言葉もない。コウタの様子は寝ぼけているようにも見えない。全く不明だが、何か意図があるのだろう。
しばらくすると、何かが終わったようにコウタはタモツから離れ、ハジメはそのタイミングで改めて訊ねた。
「どうしたんず?」
「いや。目ぇ覚ましたらよ、テレビからババア出てきて、タモツとば引っ張ってらんずや」
「テレビから?ババア?」
「んだ、おっかねえ顔のババアだったや。タモツとばテレビの中に引っ張ろうとしてらんだ」
ハジメは(寝ぼけてた……のか)とも疑うが、はっきり目を覚まして叫んでいたコウタを見ているし、荒唐無稽な説明をするその表情もこれ以上になく真摯だったため、信じることにした。
後にタモツに確認を取ったところ、「何かに足を引っ張られたところを、コウタに助けてもらった……気がする」とのことだった。
*
病院から義母の寿命が間もないことを告げられたとき子さんは、布団を病室に持ち込み、付き添うことにした。以前介護職に就いていたこともあり、看取ることに抵抗がないどころか、「しっかりと見送らなければ」という思いがあった。
寝たきりとはいえ、その瞬間が来るまでの世話人もいるだろうし、見舞客への対応などもある。こんなときは自分の身体も気遣う必要もある、と早めの就寝を心掛けた。
そんな夜。
妙な感覚で目を覚ました。
身体が浮いている。夢か。いや、目を覚ましている。
しかし、夢か。
床で寝ている自分の身体が、義母のベッドと同じ高さまで横になったまま浮いている。自分の上をこれまた横たわったままの義母が浮いている。
ああ、お義母ちゃが。逝ってしまう。
おまけに、自分も何故か上がっている……。
試しに手を上に伸ばすと、ぎりぎりで義母の寝巻の端に届いた。
引っ張り戻せるかもと、寝巻を掴んだところ、
ぐぅん。
と二人は病院の建物を上方に突き抜け、雲の中にいた。
このときにはもう二人の身体は横から縦になっており、ロケットのように上へ上へ進んだ。足元を見ると、青森の街並みが見え、上を見ると眩い光が見えた。
「お義母ちゃとば連れでいがねでけろ!」
とき子さんがそう叫ぶと、次の瞬間には病室にいた。
規則的に鳴る計器の音。
ベッドにはチューブが刺さった義母。
医者の見立て通り、義母が亡くなったのはその数日後のことだった。