マンションの花壇(茨城県土浦市) | コワイハナシ47

マンションの花壇(茨城県土浦市)

植木会社に勤めていた友人、森田さんの話だ。

マンションの管理部に呼ばれて、市内にあるマンションの花壇を植え替えてほしいと頼まれた。森田さん一人で約一週間もあればできる見積もりだった。

到着すると、管理人のおじさんが出てきて言った。

「ここの花を植え替えしようとすると、怪我する人が増えてね……それでお宅に頼んだんだあ。できるけ?」

「けが人ですか。植え替えするだけですよね? 何でけがするんですかね」

普通の植え込みがある花壇だった。特に高い位置にあるわけでも、高い木があるわけでもない。どうしてこんなところで植え替えだけでけが人が出るんだろう、不思議に思った。

「まあ、そうだなあ。そこんとこは俺もあんまり詳しくねえから」

管理人はそれ以上は話す気もないような雰囲気で、言葉を濁した。

森田さんは植え替え作業をして、しばらく休憩をしていた。立ち木なども入れるので穴を掘るのもなかなか一苦労だ。一か所どうしても固いコンクリートのような何かが埋まっているようで、スコップが入っていかない。事情を聞こうと管理人を探したがどこにもいない。

「何だよ、ここの管理人、管理が仕事じゃねえのかよ」

カツンっと大きな音がして振動が体に堪えた。普段はそうしたことでは体に来ないのだが、急に腰の筋を違えたようで、それきり腰に力が入らなくなった。

「言ってたやつかな……体調崩すってのは」

腰痛が一向に治らないので、早めに帰ることにした。明日以降また続きをしますとメモを管理室に置いて出た。マンションの地下に置いていたので、そこに降りた。

一階に出た時だった。真横に見えるさっきの花壇の上に人が立っていた。

「ちぇ、何だよ。誰だ。まだ立ち入ってもらっちゃ困るな」

車を停め、ドアを開けて花壇に向かおうと出た。

確かに薄手の淡い色のワンピースを着た女の人が立っている。

だが大きな違和感があった。

その女の人の目が黒目はなく、真っ黄色だったからだ。こちらを睨むように立っていた。

そして膝から下は完全に透けていた。後ろの花が透けていた。

女の人が浮いて立っているのだ。目がランランと黄色に光っていた。

「ひいっ」

慌てて森田さんはハンドルを切って車道に出た。

すると目の前に人がいて、バンっという衝撃音で車が止まった。

人がはねられて飛んでいくのが見えた。

「しまった! 気を取られてた」

慌てて森田さんはブレーキをかけ、ドアを開けて飛んでいった人の所へ走った。

ところが、どこにもぶつけた人の姿はなく、誰も倒れていなかった。

その道の周りにも肉片ひとつなかった。

(確かにだれかにぶつかったのだが……)そう考えながら、もう一度車に乗り込んで、エンジンをかけようと車のキーを回したときだった。

後ろからいきなり首をギュッと絞められた。

「うあっ」

慌ててバックミラーを見た。

黄色い目の女が映っていた。後部シートに立っていた。

少し笑っているかのようで口元が耳くらいまで裂けていた。人の顔じゃない、顔のパーツの吊り上がり方が尋常じゃないのだ。歪んで破顔していた。

(さっきの花壇の女が、ここまで追いかけてきた……)

もう森田さんは叫ぶことができなかった。声も出せずに車を降りた。

首の周りにまだ違和感がある。しっかり両手で首を絞められたのだ。まだ憑いてる気がする……車の中に誰かいるのだ。もう入りたくない。

「何だよ……ここ。何があんだよ……」

森田さんは車から離れた路上でヘナヘナと座り込んでいた。

「どうしました?」

頭上で声がした。買い物帰りのような恰好をしたおばあさんだった。

「この車に変なのがいて、このマンションにも変なのがいて……」

話は混乱しながらも、そのおばあさんに話をした。おばあさんは車の仲をのぞき込むと

「誰もいねえよ?」

と冷たく言い放った。そして森田さんを不審そうにジロジロ見た。

「あんた、この土地のモンじゃねえな」

渋い低い声でおばあさんは言った。森田さんはうなづいた。そしてこのマンションの植え替えに来たことを説明した。すると

「ここはなあ、昔は沼地だったんだよ。随分昔だけどな。おらが子供の頃は入っちゃいけねえ場所だったんだ。死んだ人もいたみてえでなあ。埋め立てて地鎮祭して祠もあったんだよ。マンションになってからはどこにあるか知んねえけど。いっくらお祓いしてもなあ、時間経つと浮き出てくんだよ」

「そうだったんですか、ここのマンションの花壇の植え替えするとケガするっていう話で……」

「だって、あの花壇のとこ、飛び降り自殺した人いるっぺ……」

「お、女の人……ですよね、髪が長い……」

おばあさんはうなづいた。

「水神様の祟りだ。沼なんてのは鎮められてねえ霊がたっくさんあんのさ。その人もその犠牲者だって話してたんだよお。お前さんも、あんまり近づかねえほうがいい」

「……わかりました。おばあさん、詳しいですね。やっぱり地元の人に聞くと違うなあ」

おばあさんは引きつるような顔つきで笑った。

更に、さっきの女のように目や口が吊り上がり、破顔しはじめた。

「わかるさあ。その飛び降りたの、おれの娘だ。お前さんの車に、今乗ってんのがそれだ」

ぼそりと言うと、すっと通りすぎていった。

森田さんの身体を。

無論、その後すぐに森田さんはこの仕事を断った。

マンションで自殺した人がいたことも聞いたが、そんなのはいないと答えられるだけだった。それはそうだろう。しかも庭で亡くなったと聞けば、入居者が減る。

森田さんは、腰痛から内臓の病気が判明し、今はまだ入院している。

この物件は、別の業者が仕事を取ったそうだ。

その業者がどうなったかわからないが、森田さんはなぜか花壇を掘ったところにあった金属のような固い物が気になると言っていた。

開けてはならぬパンドラの箱にも思えるが……およそ、建設時に埋められた祠の一部であろう。そんなものを気にしているうちは、病気が治らないような……気がする。

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