ホルマリンと死体 脳病院(茨城県小美玉市倉敷) | コワイハナシ47

ホルマリンと死体 脳病院(茨城県小美玉市倉敷)

昭和から平成に入るまで開業していたと言われる小川脳病院。脳病院という言い方は属名であり精神病院という意味で脳病院と言うのだろう。

精神科の隔離病棟がある病院、正式名称は「聖仁会小川病院」である。

山の中の隔離病棟となると、親戚でもなかなか面会にいきにくいものだ。大きな鉄の扉で仕切りがあり、簡単に脱走もできない。もちろん内部でどんな治療が行われていたかなど知る由もない。

『患者が逃げ出さない牢獄の造り』『猛獣用の鉄の檻がある』『患者の死体は埋められている』など口はばからない噂もあった。

現在も山の藪の中にあるこの病院に、命知らずな肝試しをする輩が多い。インターネットの普及から、ここで撮影したものを写真付きでブログにアップすれば、怪談好きな連中からのアクセスが増え人気も上がる。それで好奇心と人気意欲から、どんどんやってくる。

前田さんもそんな気軽な気持ちでここへ行った。「肝試しサイト」で数々の場所に行っていたが、どんな有名な最恐スポットでも前田さんにだけは何も起きなかった。

真夏のけだるい夜だった。

山林の中に入り込んで行った先にその廃墟はあった。

敷地中に侵入すると、とにかく藪が多くて建物の前までびっしりと生えて行く手を阻む。

何とか中に入るが、ほとんど巣窟。底が抜けおちているので、どこが受付でどこが病棟かわかりにくい。足元に何があるのかが一番怖い、そんな状況だった。

唯一わかるのは病室と思える場所には鉄格子がされていることだ。

ここでどんな拷問や逃げ出さない工夫がされていたのか……前田さんは考えると急に寒気がし始めた。夏の暑い気温なのに、勝手にこめかみから冷や汗が止まらない。

耳元にふうっと生暖かい風が吹いた。

「ひっ」

と小さく声を上げるが、窓から抜けた風に違いない。気のせいだと肝に命じた。

更に一番最恐といわれる風呂場に入る。風呂桶らしき場所に足を踏み入れる。

昔からある銭湯のタイル張りの風呂桶だ。

ここで患者の身体を洗っていたのだろうか……その光景がふっと頭によぎった。

するとその部屋の中から

「うううっつうう……うああああ」

と地鳴りのような音が、いやこれは声か、誰かの唸り声なのか耳にキーンと響く。

怖くなって、仲間に電話をした。怪我で療養しているが電話は大丈夫だった。

「ちょっと、この部屋の音聞いてくれね? 何か聞こえっぺ」

仲間にこの部屋のうねりのような低いうなり声を聞かせた。

「いや、別に何も聞こえねえな」

「電話じゃだめか、しばらくつなげとくから音を録音しといてくれ」

「わがった」

仲間に音を録音してもらうことにした。電話を掛けっぱなしにして、また別の部屋に行く。スマホで動画を取ればいいのだが、暗くて写らない。持っていたデジタルカメラでこの風呂場やほかの病室を撮影した。

鉄格子のある病室に入る。板がバラバラと落ちていて資材置き場のようになっている。底がまた抜けていそうで奥までは入れない。

懐中電灯でぐるっと部屋を映したときだった。

窓の下に体育座りをした小さな人が見えた。

「うわ!」

思わず声を上げ、懐中電灯を落とした。

「やべえ、誰かいる」

慌てて仲間に聞こえるように声を上げた。仲間は無反応だった。

恐る恐るさっき人を見た場所に、再度懐中電灯の光を当てる。誰もいない。

「見間違いか」

そこを出ようとしたときだった。ぐいっと足首を掴まれた。

「うわわわ! 何か掴まれた!」

明らかに誰かの手で足首を掴まれている。出て行けないようにしているのか……そのときさっきまで耳鳴りしていたのが消え、耳元で

「行くな」

と聞こえた。男の低い声だった。

「ごめんなさい! ごめんなさい! なんまいだ、なんまいだ!」

とにかく謝ってそこから猛ダッシュで逃げた。よくわからないお経の言葉を唱えて。

だが、その霊気は前田さんに憑いていったようだった。

「おっかねえよ、気味わりいな」

仲間にそう告げると電話を切った。

仲間は寝てしまったのか近くにいないのか無反応だった。

走って逃げて、ようやく林の外に出た。近くに原付バイクを停めていたので、それに乗って元来た道を戻ろうとしたときだった。まだ耳鳴りが取れていないし、足を掴まれた感覚も残っている。頭ももうろうとしていた。

やっと大きな県道に出た時だった。青信号を右折しようとしていた時、向かいから来たトレーラーが直進してきていた。

まさか当たるとは思わなかったが、相手のトレーラーは暴走スピードで交差点に侵入し、あっという間に接触してバイクもろとも前田さんは倒れた。

意識不明。すぐ救急車で運ばれた。頭をひどく打ち、しばらく入院することになった。

その事故の瞬間だが、相手のトレーラーの運転手は

「原付バイクが右折しているのは見えなかった。何もいないと思って直進した」

と言ったそうだ。ブレーキ跡もなかったという。

前田さんの姿がそこでは消えかけていた、ということだろうか。

退院後、件の病院でのことを仲間が録音したものを聞いてみた。

それには前田さんの叫び声や声がほとんど入っていなかった。それは、キーンという耳鳴りのような高音だけが入っていて、声はかき消されてしまっていたからだ。

「行くな」

という声だけが聞き取れた、とも言う仲間もいたが、定かではない。

デジカメで撮った写真はたくさんの白く丸いオーブだらけでほとんど写っていなかった。

前田さんは拝み屋さんに頼み、自分とバイクになにか憑いていないか聞いた。

すると拝み屋さんはこう答えた。

「あなた、行っちゃいけないとこに行ったでしょう? だいぶ霊を引き連れてきちゃったね。バイクもあなたもすぐに神社でお祓いをしてもらいなさい。私では祓いきれる数じゃない」

相当な数の霊が、彼とバイクに憑いていたそうだ。

ちなみに、あのうめき声が聞こえたという浴槽は、患者の死体をホルマリン漬けにしていたと言われている。噂の真相を知る者は、なぜかこの世にいないようだ。誰も知らない。

シェアする

フォローする