難産 人魂を見る(大阪府) | コワイハナシ47

難産 人魂を見る(大阪府)

科学で解明されないもの

俗に言う人魂を見たという人は、現代にいたるまで多い。

人魂は「霊魂火」とも書くらしい。霊魂の火。人間の体内から抜け出る──生命に関係するなにか、ということになるのだろうか。

もっとも近年はさすがに人魂は都市伝説に類する話題としては、下火のようだ。また一説によれば、人魂と名のつくものは、すべて球電現象で説明がつくとか。その証拠に目撃されるときはたいてい雨模様で雷雨の場合も多い。空中を走るプラズマが人の目には人魂に映る、というのだ。

別の説では動植物。たとえばホタルやキノコのたぐいの発光を、人魂だと思いこむ場合も少なくないのだとか。

それではやはり人魂は、その文字に反して人の一念や魂とは、なんの関係もないのだろうか……?

ずいぶん古い話だが、いまでも北大阪の高級住宅地に住んでいる橘さんという老婦人が、まだ一〇代のはじめだったときのことだ。

隣家でお産があった。戦前のことで──病院ではなく自宅に産婆(助産婦)を呼んでの出産であったらしい。

これが──難産であった。ずいぶんと努力はついやされたのだけれど、どうやらダメではないか。隣家の様子から家の人間がそう言っているのを、子供だからと遠ざけられていた橘さんは耳にした。

ふだんつきあいのある隣家であり、お産の最中である若い婦人のことも橘さんはよく見知っていた。

子供心に心配でもあり、気の毒でもあって、彼女は縁側に座って、隣家との境の塀のほうを見つめていた。月のない春の晩で、あたりは真っ暗だ。

飛びこんできたものの正体は…

すると。

その塀を飛び越えて、なにかが、

ひゅっ

と、橘さんの家の庭に飛びこんできた。

「────―─!」

それは、鼠くらいの大きさで、赤みがかった火の玉であった。ものすごい勢いで橘さんの視界を、びゅうびゅうと飛びまわり、そして唐突に、

………………びちゃっ

と、庭の地面の上に落ちて動かなくなった。

書けば長いが、あっというまのできごとだ。橘さんは驚くと同時に、おそろしかった。が、家の誰かを呼ぶ暇もなく、落ちた火の玉は燃えることもなく、動かず、暗い庭のなかで静まりかえっている。

「………………」

彼女は意を決してそっと履物を履くと、庭におりた。……落ちたものを確かめるためだ。年齢を考えると、気丈としか言いようがない。

(いったい、なんだったのだろう?)

そおっ、と火の玉が落ちたあたりに近寄ってみる。

そして……息を飲んだ。

「あっ!」

そこには、血のかたまりが、べっとりと染みをつくっていた。

暗闇であるにもかかわらず、毒々しい赤さを橘さんははっきりと思い出せるのだという。

ちょうど、その時間。隣家の婦人は赤ん坊を産み落としていた。

………………死産であった。

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