釣り人戻らず(茨城県ひたちなか市) | コワイハナシ47

釣り人戻らず(茨城県ひたちなか市)

樋口さんは魚釣りが趣味で、那珂湊から大洗の漁場で夜釣りをするのが好きだった。魚釣り仲間に、釣り具店の佐藤さんがいた。

佐藤さんはとても親切で、えさや釣れる場所などをいつも樋口さんに教えてくれた。

樋口さんがある晩に体験したことである。

大洗の海岸沿いを走っていたときだった。

道の路肩に白い服を着た女性が立っていた。時間は深夜十二時。こんな時間に女が一人なんて不気味だなと思った。

気づくと同じ道を走っていることに気づく。磯前神社の鳥居を通りすぎてそこからずっと海岸線を走っているはずなのに、さっきの女性が道脇に立っているのだ。

「あれ、なんで着かないんだ? それともさっきの女、着いてきてるのか?」

気味が悪いな、と思っていたら、佐藤さんの白い軽自動車が路肩に停まっているのが見えた。

樋口さんも路肩に車を停め、クラクションを鳴らしたが佐藤さんは気づかないようだった。

発進した佐藤さんの車がどうもおかしい。右に左にと蛇行運転をしている。

「酔っぱらってんのかな」

当時は飲酒運転も多く、夜釣りは焼酎を飲みながら、という釣り人も多かったのだ。十メートルほど行った先で佐藤さんの車が止まった。さっき見かけた白い服を着た女性が車の横に立っていた。ドアが開き、彼女は乗った。

さっきから見かけていた女だ。当然、ゾクッとした。

「佐藤さんの連れだったのかな」

樋口さんの車が急に何かを巻き込んだようにガクンと止まった。外に出てタイヤを見てみたが、特に何も詰まっていない。

海が見えた。誰か泳いでいるように水しぶきがあがっていた。夏でもないのに何だろうと思って見ていたら、姿はなくクロールするような腕だけが見えるのだった。気味が悪くなり、また車に戻りエンジンをかけると、暗闇からすうっとまたさっきの髪の長い白い服の女が浮いたように出てきた。

「ひっ」

「乗せてください」

頭の中にテレパシーのような女の低い声が響いた。

「いやだ!」

絶対乗せるもんかと思い、車をバックさせて急発進した。

走っているうちにやっといなくなった、とバックミラーを見るといない。

ほっとして、左右のサイドミラーを見ると、助手席のミラーに二つの目ん玉だけが映っていた。

「ひっ」

時速百キロくらい出して、どこを走ったかわからないくらいに走り、家に帰った。帰ってからも怖くて、そのまま高熱が出て寝込んでしまった。

一か月経ち、ようやく元気が出てから、佐藤さんの勤める釣り具店に行った。どうやら不在のようだった。

「今日は佐藤さんどうしました? お休み?」

すると店長が悲しい顔で言った。

「佐藤さんねえ、一か月前くらいかなあ、海に落ちちゃって亡くなったんだ」

「ええ! 僕は先月会いましたよ、夜釣り行く途中で……」

「なんかね、酔っぱらって海に落ちたらしいのよ。釣り道具は持ってなかったみたいでね。車は路肩に停めてあったんだけども……水死体で上がってなあ」

「いつ、いつです?」

それはあの夜、車で遭った日だった。確か女性が一緒だったような……と思い聞いた。

「あの、佐藤さんはその、落ちた時って一人だったんですか?」

「水死体は佐藤さんだけ上がったと思う」

「あの夜、僕は佐藤さんの車みかけたんですよ! 女の人を路肩で乗せてました。でも変なんです。僕にもその女性が乗せてくれって言ったんですよ」

「? よくわからんなあ。佐藤さんにつきあってる女性なんかいなかったよ。ひとり者だったし、遺品整理もしたけど、何もなかったなあ」

「じゃあ、あれは誰だったんだろう」

「わっかんねえなあ」

わかるのは、女性を乗せた者は死、乗せなかった者は生きた、ということだ。

大洗海岸には、よく水死体が流れ着くそうだ。海水浴場があることもそうだが、いつも同じような場所に流れ着く。

溺れた人は一度深い底に沈むが、二,三日経つと体にガスがたまり、膨らんで浮きあがって潮の流れに合わせて海岸に打ち上げられる。

その遺体が集まる海岸の辺りを『しおどめ』と言う。『汐留』という地名が東京都新橋の先にもあるが、あのあたりは以前は貨物列車の駅で、JRが払い下げた場所である。その前の由来は……わからない。

シェアする

フォローする