鬼姫──橋姫の妬心──(京都府) | コワイハナシ47

鬼姫──橋姫の妬心──(京都府)

私はこれまでに女・男・女の三角関係に陥ったことが一度だけあり、その時分は嫉妬に狂った女性の影を至るところに見い出して、ずいぶん怖い思いをした。

駅のホームや歩道の端、橋の上に立つと必ず彼女が傍に現れて、殺意を籠めて睨みつけてくるのだ。

いつか殺られると恐れていたら、とうとう歩道橋の階段から転げ落ちた。幸い足を挫いただけで済んだが、あのとき背中を押した二つの掌の感触は、今でもまざまざと憶えている。

咄嗟に、彼女の生霊に突き落とされたと思い込んだものだ。しかしやがて、生霊の仕業などではなく、すべて私の幻覚だったに違いないと考え直した。

なぜなら、それ、を見はじめたのは、彼女が罪つくりな男に刃物を突きつけて、命からがら逃げてきたその男と私が逃避行していた、ちょうどその頃だったから。

後ろめたさに恐怖が加わった挙句、居もしない生霊をこしらえてしまったのだろう。

妬みというのは恐ろしいもので、二〇一一年七月に京都府木津川市で高級クラブのアルバイト店員が男性客の恋人から殺害される事件があった。

犯人は被害者を恋敵だと勘違いし、尾行して家を突き止めると、持っていた刃物で数ヶ所を刺して殺してしまった。現場は血の海で、酸鼻を極めたという。

この事件の報に触れたときは、三角関係経験者としては震えあがるばかりであった。

また、事件が起きた場所が京都だったことから《宇治の橋姫》を想い越して、昔から嫉妬は女を鬼に変えるものだと言われてきたが本当だったなぁと思ったものだ。

京都府宇治川の宇治橋で祀られている宇治の橋姫は、典型的な《鬼女》の原型だ。

これが登場したのは『平家物語』の異本『源平盛衰記』に収録されている「剣巻」で、嵯峨天皇の御世(八〇九─八二五年)に起きた出来事として書かれている。

とある公卿の娘が深い妬みに囚われ、貴船神社に七日籠って貴船大明神から「鬼になりたければ、姿を変えて宇治川に二一日間浸れ」との託宣を受けた。

そこで娘は、髪を五束に分けて五本の角を作り、顔に朱をさし体には丹を塗って全身を赤く染め、松明を灯した鉄輪を逆さに頭に載せ、さらに両端を燃やした松明を咥えた上で、宇治川に二一日間身を浸した。すると、本当に生きながら鬼になり、妬んでいた女を手始めに、手当たり次第に人を殺しはじめた。

その頃、源頼光の四天王の一人、源綱が一条堀川の戻橋で肌が雪のように白い美しい娘と出逢った。この娘こそが橋姫で、綱が近づくと鬼に変化して襲いかかった。

綱が

刀で断ち斬った鬼の腕は真っ黒で猛々しく、色白の娘の片鱗も無かったという。

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