悲鳴(東京都江東区) | コワイハナシ47

悲鳴(東京都江東区)

重幸さんは眼鏡屋を経営している。センスを感じさせる個性的な眼鏡の品揃えに力を入れていて、目が高そうなお客さんを探して方々へ営業を掛ける毎日だ。

たまたま知り合った某関取に相撲部屋へ招いてもらって、同じ部屋の力士たちに商品を勧めたこともあった。すると皆、重幸さんから眼鏡を買ってくれるようになった。そこで、重幸さんの方でも熱心に彼らを応援するようになった。

今から八年ほど前のことになるが、いつものように両国国技館に初場所の番付表を買いに行ってみたら、国技館が改装工事中とのことで購入が叶わなかった。

その日は仕事が休みだったので、時間が余った。そこで気まぐれに、バスや水上バスなど電車以外の乗り物で東京散歩をしてみようと思い立ち、まずは両国から錦糸町行きの都営バスに乗った。錦糸町に着くと亀戸天神などを見物して、次にまたバスで東京ビッグサイトへ移動した。

東京ビッグサイトは日本最大のコンベンション施設で、一年中さまざまなイベントが催されている。下調べしていなかったけれど、何かやっているだろうと期待していた。ところが、この日に限って次回展示のための準備中で閉まっていた。

なんだかツイていない日だと思いつつ、だったら水上バスに乗って潮風に吹かれようじゃないかと考えた。東京ビッグサイトは、すぐ近くに水上バス乗り場があるのだ。

しかし行ってみたら、これも運休。

不運にも程がある、何かに祟られているんじゃないかと内心ボヤきながら、水上バス乗り場に行ったついでに、そこにある公衆トイレで用を足すことにした。

東屋のような屋根が付いた洒落たトイレだ。中も清潔で、個室が五つあった。

女子トイレとは壁で隔てられている。男子トイレの個室はどれも空き表示が出ていて人の気配が無く、女子トイレにも誰もいないようで水音ひとつ聞こえてこない。

五つある内の真ん中の個室に入り、下を脱いで便座に尻をつけた……その途端に、壁の向こうで誰かが凄まじい悲鳴を発した。

「ギャアーッ!ギャアァーッ!」

驚いて、出るはずのものが引っ込んだ。明らかに若い女の声だ。絶叫は長く尾を引いて続いている。女子トイレで何か起きているのだ。

ハッと我に返ってズボンを上げ、個室から飛び出すまでは、確かに悲鳴が聞こえていた。

しかし、個室から出ると同時に声が止んだ。女子トイレの出入り口から中へ向かって「大丈夫ですか?」と声を掛けたが、返事は無く、どの個室のドアにも空き表示が出ていた。

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