仁王像と猫(千葉県山武市) | コワイハナシ47

仁王像と猫(千葉県山武市)

千葉県山武市の《浪切不動院》こと成東山不動院長勝寺は、昔、漂流した漁船をこの寺の灯が救ったと言い伝えられており、海の守り神として崇拝されてきた。そもそも行基菩薩が七三一年に海難除け祈願の不動明王を刻んで開基、その後、弘法大師がこの地に移して建立したのが始まりとされる。

寺の特徴は、阿吽一対の仁王像を収めた朱塗りの山門と、同じく朱で塗られた三方懸崖造りの本堂、そして本堂を背後から包み込む石塚山の椎の森だ。椎の樹高は一〇メートル前後もあり、冬でも緑色の葉を枯らすことがない。秋には森の中がドングリでいっぱいになる。

ある日、小学五年生の澪さんは、祖母からこの浪切不動院の傍の店までお使いを頼まれた。

浪切不動院は小学校の通学路の途中にある。祖母に教えられた店は、山門の正面の道のほぼ突き当たりだったので、道に迷うこともなく、お使いは簡単に済んだ。

この辺りの大人は車で移動するから、登下校時でもないと歩く人が乏しい。いつのまにか黄昏どきで、景色が薄暗く沈んでいた。急いで帰ろうとして歩きだしたところ、

「おじょうちゃん、どこに行くの?キミ可愛いねぇ。何歳?」

と、怪しい男が声を掛けてきた。

本能が「逃げろ」と叫び、澪さんは浪切不動院の山門まで真っ直ぐ走っていった。

男が追い駆けてきている気がして振り向きかけた……そのとき、山門の下で「ニャー」と猫が鳴いた。見れば何度か遊んだことがある近所の野良猫だ。尻尾をピンと立てて「ついて来い」というように澪さんを振り返りながら阿形の仁王像の囲いに入った。

澪さんも猫に続けて仁王像の横に隠れた。猫は仁王像の台座に飛び乗って、澪さんを見守る態勢を取った。

間もなく、さっきの男が山門に現れた。仁王像を囲む低い柵の中は丸見えになるはずで、澪さんは縮みあがった。これでは袋の鼠である。

飛び出して逃げようとも思ったのだが、猫にきつく睨まれたので躊躇した。

そのうち、おかしなことに気がついた──男の視線は明らかに澪さんの上を行ったり来たりした。なのに何も見えなかったかのように探す素振りを続けているのだ。

しばらくすると、男は山門を離れて立ち去った。

澪さんは胸を撫でおろした。そして柵の外へ出ようとしたのだが、猫が前肢を伸ばして触れてきた。「待て」と言われているような感じがした。

一〇分ほど経つと猫が台座から下り、先に立って歩きだした。猫の後ろをついて行ったら、ちゃんと澪さんの家に到着した。玄関の中に入るまで、猫は澪さんを見守っていた。

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