お題目(千葉県) | コワイハナシ47

お題目(千葉県)

「ナンミョウホウレンゲエキョウ、ナンミョウホウレンゲエキョウ……」

澪さんの祖母は日蓮上人を信心していて、それはもう熱心に、朝晩は言うまでもなく、何かあれば時を構わず、お題目「南無妙法蓮華経」を大声で唱える。子どもの頃、澪さんはしょっちゅう昼寝をする性質だったのだが、二階の子ども部屋で寝ていると一階の仏間からこれが聞こえてくるため、祖母の葬式の夢を見てしまったこともあった。

澪さんの家は、防音という概念が無い頃に建てられた古い日本家屋で、壁が少なく襖が多い。だから、お題目がほぼ素通しで聞こえてきてしまうのだ。

祖母の信徒仲間が仏間に集って一斉にお題目を上げはじめると、その大音声は家全体を圧して響き渡った。

小学二年生の頃の夏の午後、いつもの昼寝をしていたら、階下でお題目が始まった。

祖母の畑で友だちと西瓜を盗んでたらふく食べたばっかりで、お腹がくちくて眠かったのに、「ナンミョウホウレンゲエキョウ」が煩くてしょうがない。

それでも目を閉じて眠ろうと頑張っていたのだが、どういうわけかお題目を唱える声が階段を上って近づいてきた。

祖母とは違う声だ。祖母と仲が良い信徒さんだろうと思うけれども、なぜ二階へ……。

不思議に思っていたところ、その声がどんどん傍へ近寄って、ほとんど耳もとと言ってもいいぐらい間近から聞こえはじめた。

──こんなことは初めてだ。私のために拝んでくれているのかしら?なんだか、それこそお葬式の仏さんにされたようで嫌な感じだなぁ。

それにこれでは全然眠れない。

苛々して目を開けて声の方を振り向いたら、真っ白な靄が人型の塊になって枕もとに座り、ニヤニヤ笑いながら両手を合わせてお題目を唱えていた。

悲鳴をあげて飛び起きると、たちまちそいつは薄れて消えた。

澪さんはそれから、泣きながら仏間にいる祖母のところへ駆けていって、隣に並んでお題目を唱えたのだった。

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