迷走(四国地方) | コワイハナシ47

迷走(四国地方)

Cさんの実家は四国の山奥だそうだ。

もう三十年ほど前のこと。

当時小学生だったCさんを挟んで、毎晩親子三人、川の字で寝ていた。

ある夜、目が覚めるとお父さんがいない。

お便所にでも行ったんだろうかと思ったが、いつまでたっても帰ってこない。

Cさん同様、お母さんも起きていた。

「お父さん、帰って来けえへんね。どこ行ったんやろね」と心配しはじめた。

表から、カラカラと下駄の足音が近づいて来る。

「あっ、お父さんだ!」

カラカラカラ……。

下駄の音がすぐ近くまで来た。

よかった、よかったとお母さんと一緒に胸をなでおろした。ところが玄関近くまで来たかと思うと、ぐるりと家を一回りしてだんだん遠のいていく。

え?あれ?お父さん、なにしてるんやろ?またどっか行きよるよ?なんで?とふたりで顔を見合わせた。

しばらくするとまた、カラカラカラ……と近づいて来た。それがまた家をぐるりと一回りしはじめる。

これはいったいどうなっとるんや?

お母さんは勝手口から外の様子を見に行くというので、Cさんもあとを追いかけた。

カラカラカラ、下駄履きのお父さんがこっちへ歩いてくる。

「お父さん」

「お父さんちょっと!ねェ!」

呼びかけたのに、まるで耳に届いていないようだ。そして母家をぐるりと回って、便所へ向かって行く。

そばを通ったお父さんの目はなにか一点を見据えていて動かない。

その目が怖かった。

「お父さん、お父さん」

お母さんが何度も呼ぶが、お父さんには届いていない。そのまま便所へ行くのかと思うと前でくるりと向きをかえ、またこちらへ来る。

「お父ちゃん、お父ちゃん、しっかりして」と、Cさんは泣いてお父さんにしがみついた。

体がピリッと震えてお父さんの目がCさんを見た。

「おう、お前らか」

「お前らか、やないでしょ。今までなにしとったん」

お母さんが聞くと「いやあ、便所行きとなってな、行ったんはええねんけど、家になかなか着かへんのや。着かんなぁ?着かんなぁ?家てこないに遠かったかな、思うてるうちに道に迷うてしもたんや。そやけどお前ら、こないに遠くまでよう迎えに来てくれたなぁ、ほんま助かった」という。

「遠くに?迎えに?あんたの家そこやがな」とお母さんがあごでしゃくった。

「えっ?……あっ、ほんまや」

茫然としたまま固まったお父さんの顔は、今だに忘れられないという。

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