僕の先生(広島県) | コワイハナシ47

僕の先生(広島県)

一九七六年の一二月二六日のこと。そのとき、広島県の高校一年生、村上誠さんは炬燵で年賀状を書いていた。

この日は温暖な広島にしては珍しく大雪が降り、天気予報では明日も雪とのことだった。

雪は朝からしんしんと降り積もって、世界を白く染めあげていく。ときどき窓の外を眺めたり蜜柑を食べたりしながら、温かい室内で年賀状を書くのは楽しいものだった。

夕飯が済むと彼は再び年賀状を書きはじめた。雪景色を見たかったので障子を開けたままにしておいたところ、窓の外を中学校の音楽の先生が通りかかった。

K先生、相変わらず綺麗だ、と、横顔に見惚れていたら、先生がこちらを振り向いた。

誠さんは炬燵から飛び出して窓を開けた。「先生!憶えていますか?」

自分でも思いがけず、よそいきの言葉が出た。「三のAの村上です!こんばんは!」

K先生は、彼と目が合うと美しく微笑みかけてくれた。そして静かに立ち去った。

「先生、さようなら!」

本当はちゃんと話したかった。どれだけ憧れていたことか。中学のときは、女神さまみたいなこの先生の前では緊張して口がきけなかった。残念だ。

──そうだ。K先生に年賀状を書こう!

雪の中にスーッと消えていった華奢な後ろ姿を思い返しながら、彼は年賀状をしたためた。ところが住所を書く段になって、自分たちが卒業する間際に先生が退職したことを思い出したのである。卒業アルバムにK先生の住所は載っていなかった。

しかし、すぐ近所にK先生と仲が良かったピアノの上手い女子が住んでいた。あの子なら住所を知っているかもしれないと思い至り、翌朝訪ねて訊いてみた。

「おはよう。なあ、K先生の住所知っとる?わし先生に年賀状書こう思うて」

「K先生に年賀状?」相手は眉をひそめた。「あんた本気で言うとるん?」

「は?本気よね。いけん?」

「……知らんのじゃの。先生、昨日死んじゃったんよ。うちも今、電話で知ったばかり」

K先生は結婚と同時に退職し、産み月を迎えていた。昨日急に産気づいて助産師を自宅に招いたが、大量に出血して危篤状態に陥り、搬送中に息絶えたとのことだった。大雪で救急車の到着が遅れたことも亡くなった原因かもしれないということだ。

誠さんはそれを聞いて、驚きと悲しみでしばらく声も出なかった。

──ちなみに、そのときK先生は亡くなったが、お腹のお子さんは先生の遺体から無事に生まれた。それがおそらく、K先生が誠さんに微笑みかけたときのことで。

シェアする

フォローする