佐波川ダムのトンネル(山口県) | コワイハナシ47

佐波川ダムのトンネル(山口県)

佐波川ダムのトンネル①

山口県に大原湖というダム湖があり、周辺にキャンプ場や公園が設けられている。春になると辺りに植樹された桜が一斉に咲き、花見客で賑わうようだ。

しかしながら二〇年ほど前までは、この一帯は心霊スポットとして有名だった。九〇年代初頭に放送されていた『ビデオあなたが主役』というテレビ番組で湖畔のトンネル付近で撮影された「手招きする幽霊」のビデオが紹介されたこと、大原湖の元となる佐波川ダム建設工事の際に殉職者を五人ばかり出して、その慰霊碑があることが、その原因だろう。

さて、そこへ、康孝さんら大学生三人が肝試しに来たのは約二〇年前の春のことだった。

康孝さんとオカダとカネコ、男ばかりでオカダの軽自動車に乗り込んで、深夜零時過ぎに湖畔のダム管理事務所に併設された駐車場に到着した。ここがダムサイト右岸で、この堰堤の上に問題のトンネルの出入り口があり、徒歩で入っていった。

このトンネルは通称「佐波川トンネル」と呼ばれているが元は工事作業用の隧道だったため、本当は名前がない。工事用と聞けば納得のいく無骨な造りで、壁面などは素掘りにモルタルを吹き付けただけであって、壁一面が大きく波打つようにボコボコしている。天井の照明器具が二四時間点灯しているが、壁の凹凸が顔のように見えて怖い。

幽霊を見ることなく三人はトンネルを抜けた。その先は湖畔の遊歩道だ。真っ暗な湖面を眺めながら三分ほど歩くと、カネコが道端で立ち小便をしはじめた。

そこで、康孝さんとオカダが悪戯心を起こして、カネコをおいてきぼりにして全力ダッシュで道を引き返して駐車場まで戻るとオカダの車に乗り込んだ。

独りぼっちで凸凹のトンネルを通るカネコは、さぞかし心細いに違いない。

泣き顔で追いかけてくることを期待したのだが、待てど暮らせどカネコが来ない。

そこで康孝さんとオカダは車で元の遊歩道までカネコを探しに行った。ところが見つからない。二人は必死に二時間以上も友を探しまわった。

午前三時頃、とうとう捜索を断念して傍の民家を訪ね、事情を話して電話を借りると、警察に通報した。そのまま民家で待機しろと警察に指示されて待っていたら、一時間後、警察から電話があって、警官に指定された場所へ車で急いだ。

ダムから一〇キロも離れた畑の中でカネコは保護されていた。

カネコによると、二人を追い掛けて駐車場に戻ると、オカダの車が発進して自分の方へ向かってきたので手を振って合図したが、気づいてもらえなかった。そのとき、後ろからオイと呼ばれて、振り向くと作業着のおじさんが高い木の枝に摑まってぶらさがっていた。此の世のものではないと思い、走って逃げたら、足が止まらなくなってしまったのだという。

佐波川ダムのトンネル ②

康孝さんとオカダは、カネコの話を聞いて反省した──おいてけぼりにしてちょっと怖がらせるつもりが、警察を巻き込むような大騒動になってしまった──けれども、それ以上に悔しかった。なぜ自分たちはお化けに遭遇できなかったのか、と。

佐波川ダムとトンネルは、とにかく有名な心霊スポットである。怖い目に遭うために訪ねた結果、警察官に説教された。納得がいかぬ。リベンジしなくちゃ!

というわけで、死ぬまで佐波川ダムには近づかないと言い張るカネコを置いて、大学の同級生の女子二人を新たに加えた計四人で再訪した。

ところがトンネルに着いてみたら、この日に限って、二四時間点灯しているはずの照明が点いていなかった。

トンネルは数百メートルあり、途中が緩くカーブしているため、堤防周辺を照らす電灯の明かりが届かなくなると、真の暗闇に包まれてしまう。

不幸中の幸いで、康孝さんがライターを二つポケットに入れて持っていた。

女の子二人に一つ貸してあげて、あとの一つはオカダと自分とで使うことにした。

ライターの明かりでは足もとを照らすのがようやっとだから、ボコボコと波打つ壁に手を当てて、四人でしがみつき合って先へ進んだ。

やがて、ようやくトンネルの向こう側の出入り口が見えてきて、ホッとしかけたそのとき、突然、ライターの火が二つとも同時に消えた。四人で「ワッ」「キャッ」と一斉に悲鳴をあげる……と、その声の残響が消えないうちに、オカダが叫んだ。

「ああっ!ヤバーッ!」

これで一気にパニックに陥ってしまった。女の子たちが「もう帰る!」と泣き喚きながら訴えた。「ヤダもう!怖い!」「オカダさんの馬鹿!大っ嫌い!」

そこで、康孝さんが先頭になり、女の子たちの肩を抱いて手探りでトンネルの中を引き返した。車に乗った後も、彼女たちはまだ泣きながら怒っていた。

「俺も泣きたい」と、すっかり嫌われてしまったオカダがぼやいた。

まずは女の子を家まで送り、二人きりになると康孝さんはオカダに訊ねた。

「何か見たの?」

「うん。実は、出口のところに直径二メートルぐらいもある巨大な目ん玉が浮かんで、こっちをジーッと見てたんだ。それで思わず大声を出した」

それから数ヶ月後、オカダはバイク事故に遭って、瀕死の重傷を負った。康孝さんによると、だからオカダも佐波川ダムには二度と行かないと言っている、とのことだ。

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