朝の行列(兵庫県神戸市) | コワイハナシ47

朝の行列(兵庫県神戸市)

Sさんが学生の頃の話。

ある冬、Sさんは、彼女を驚かそうと神戸市の山手に向かって車を走らせていた。

彼女はいつも朝早く家を出て、アルバイト先のパン屋さんに通っていた。

早朝、彼女が玄関を出ると、思いもよらぬ迎えの車が来ていて感動!というのがSさんの描いたシナリオだった。

道がすいていたおかげで、少し早く着いた。

まだ空は暗い。

ちょっと仮眠をとろうと、シートを倒して目をつむった。

するとどこからか、今まで一度も耳にしたことのない音が聞こえてくる。それは音でもあり、また声のようでもあった。

それが大きくなりながら近づいている。

音はどんどん近くなって来ているが、さらに遠くの方からも聞こえてくる。

何かが集まった行列のようなものが音を出している感じがする。その中には大勢の人の声も混じっている。

冷たく乾いて、張りつめた空気の中を抜けてくる。

はっとした。音ではない。耳で聞いているというわけではない。

聞こえたと思った時から、怖くて手で耳を塞ふさいでいる。頭の中に響いているが、体や車体が振動している。

怖い。怖いが見たい。

薄目を開けて、車の外を見た。

まだ真っ暗い山の方から、物とも人とも服とも動物ともいえる何かが行列をなして、こちらへやって来る。

蛇のうねりのようなものが、目の前から山の中までつながっている。

もしかしたら死ぬのか、と思った。

目をつむって念仏を唱えながらその行列が消えてくれることを願った。

列は、車の中をすり抜けて、Sさんの寝ているすぐ横をどんどん通り過ぎていく。

男の声、女の声、何かわからない呻うめき、鼻息の荒いもの、小動物のようなものがいる。ギシギシと荷車のような音も通った。

その行列は三十分は続いているような気がする。

音が遠ざかって消えた。

と、コンコンというガラスをたたく音。

うわっ、と声をあげた。

「どうしたん?こんなところで」と彼女が車をのぞきこんでいる。

「今、ここをなんかの行列が通っていった!」

「何言うてんの」

「ほんまや。あそこ、あそこの山からここに来て、向こうの海の方に行った!」

しかし彼女はまったく相手にしてくれない。

寝ぼけていると言われながら、そのままパン屋まで送ることになった。

音にも姿にも、これだといえるはっきりとした印象がなかった。彼女になんと言われても仕方がないと思ったという。

それから十年たって、阪神淡路大震災があった。

彼女の家の見舞いに行って驚いた。

あの行列が通ったその道すじの上を、山から海へ向けて地面が裂けていた。

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