廃工場(東京都) | コワイハナシ47

廃工場(東京都)

Aさんが生まれ育ったのは東京郊外の下町。ここに大きな町工場があった。

小学生時代の通学路が、その工場の塀に沿った道だったことや、広く大きな遊び場がなかったこともあって、遊ぶために何度も工場の敷地に入った。

時には石を投げて窓ガラスを割って大あわてで逃げ帰ったこともあった。

その割れた窓は冬になってもずっとそのままでガラスの破片が窓枠に残された。取りかえられることがなかったので、その窓を見るたびに心が痛んだ。

やがてAさんが十二歳の時、その工場は取り壊されて、塀で囲まれた跡地はそのまま空き地になった。

おかげで窓ガラスを気にすることもなく、広々とした遊び場ができた。しかし大喜びしたのもつかの間、小学校を卒業すると同時に、Aさん一家は引っ越ししなければならなくなった。

大学生になった頃、幼馴染みの友人を訪ねて久しぶりにその下町を歩いた。

おっ!

通りの角を曲がると塀の向こうになつかしい工場が見えた。

え、工場?そんなはずはない!引っ越す前に完全に取り壊されて跡地が遊び場になったはずだ。確かに自分はそこで遊んでいる。

しかし、どう見ても新築されたものではない。見れば見るほど幼い頃に遊んだあの工場だ。

あの自分が割ったガラス窓がまったくそのままで残っている。窓枠に残ったガラス破片の形まで同じなんて……。

ひょっとしたら昔と同じ風景を再現したのかもしれない、と思った。

ここまで工場を再現できるものなのか?と感心しながら友人宅へ道をとった。

もう一度ゆっくり工場が見たくて帰りも塀沿いの道を歩いた。

工場がない。

思い切って塀の中をのぞくと資材置場になっていた。

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