怒り弁天(福島県いわき市) | コワイハナシ47

怒り弁天(福島県いわき市)

いわき市の湯本温泉で芸者置屋を経営してきた父が鬼籍に入ると、長年の得意客である某社の会長が、芸妓たちを元気づけるために、高さ三〇センチばかりの弁天像をくれた。

大輔さんと母が共同で父の跡を継いで間もない頃で、二人は会長の厚意に感謝したが、件の弁天像は、彫刻は精緻なものの、女体の表現がなまめかしさを通りすぎて嫌らしく、肝心の芸妓たちの失笑を買ってしまった。若い雛妓の中には引っくり返して弁天様のほとを覗く不躾なのもおり、流石に大輔さんの母がたしなめたが、手遅れだった。

やにわに置屋じゅう至るところで鳴り響くラップ音!

勝手にテレビが点き、ザーッと大音量で鳴りながら暗く淀んだ不気味な画面を映し出し、コンセントから電気コードを引き抜いても消えない。そのときには、すでに母の愛犬は泡を吹いて引っ繰り返り意識がなく、芸妓たちは全員裸足で外へ逃げ出す大騒ぎ──。

「どうにかしておくれ!」と母にすがりついて頼まれたが、大輔さんもどうしていいかわからない。取り敢えず果敢に置屋の中に戻ったものの、空気が静電気を帯びてそこらじゅうでパチパチと青い火花を散らす。「イテッ!アチチッ!」と、手で顔を守りながら、弁天像に近づいて、会長から貰ったときに納められていた桐箱へ仕舞おうとした。

芸妓たちは、その間、開いているドアから中を覗き込んで、彼を見守っていた。

あと少しで弁天像に手が届くというとき、芸妓のうちの誰かがアッと叫んでこう言った。

「あそこに赤い服を着た女が!」

振り向いて、指差された方を見たけれど、そちらには消えないテレビがあるだけだった。

とにかくこの弁天像を箱に入れよう。むんずと掴んで、箱の中に寝かせてみたところ、顔が変わっていた。元は口を結んで嫣然と微笑んでいたのが、薄紅色の唇を開いてニタニタと嗤っている。ナンマンダブ……と思わず祈りつつ慌てて箱の蓋を閉じた。

たちまちテレビが消え、犬が元気になって跳ねまわった。念のために獣医に診せるからと母が犬を連れ、ついでに弁天像を会長に返してくると言って、桐箱を持って出て行った。

大輔さんは「験直しに一杯やろう」と芸妓たちを引き連れて料理屋へ。

置屋に戻ったのは午前二時頃。芸妓らは各々の部屋へ引っ込み、大輔さんは帰宅するためにハイヤーを呼んで、車が来るまで事務所で休むことにした。

肘掛け椅子に沈んでぼんやりしていると、突然テレビが点いて映像が流れた。長い黒髪の人物の後ろ姿が映っている。ギョッとして見つめたら、すぐにそいつが体ごと振り向きはじめた。赤い服の女だ。一重瞼の切れ長の目があの弁天像に似ていた。彼は腰を抜かし、這って外へ逃げ出した。──それからは何事も起こっていない。

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