ヤドカリ(千葉県野田市) | コワイハナシ47

ヤドカリ(千葉県野田市)

かねてより興味があった狼信仰に関連する講演や展示会などが縁で、写真家の青柳健二さんと面識を得た。青柳さんには『オオカミは大神』という全国の狼像に関するフォトルポルタージュや、国内外の棚田を撮影して解説を付けた『棚田を歩けば』といった著作がある。

つまり旅をするタイプの写真家さんなのだ。その彼から二つの体験談が寄せられた。

二〇〇八年のこと、車中泊をしながら妻と一匹の愛犬を連れて日本一周の旅に出ようと思い立って、健二さんは箱型のバンを購入した。銀色のボンゴフレンディで、妻を連れて川越の中古車展示場を訪ねたとき、その車と「目が合った」と思ったのだ。

買った時点の走行距離は八万キロ。まだまだ走れる。

健二さんは予定を決行し、二〇〇九年の四月に北の大地を出発して日本列島を南下すると、沖縄で折り返して約一年後の二〇一〇年四月に渋谷のハチ公前で終了した。

銀色のボンゴフレンディは健気に旅に堪えて、その後も七年余りの使用に応えた。

しかし、二〇一六年に走行距離が一六万キロに及んだ頃から、彼が運転しているときに、たまにエンストするようになった。買い換えどきかもしれない。健二さんはボンゴフレンディのデザインと使い勝手が気に入っていた。ところがメーカーのマツダでは二〇〇六年で生産を中止している。そこで再びインターネットの中古車市場で探したら、乗っているのとそっくり同じ、銀色のボディのものが見つかった。

走行距離も同じ八万キロで、今までのボンゴフレンデイの生まれ変わりのようだ。

運命を感じ、これを買うつもりになった。

途端に、健二さんが独りで乗っているときに限って、古いボンゴフレンディがエンストする頻度が上がった。妻が運転すると快調に走るのだ。自分が乗っているときだけエンジンが不調になるというのは奇妙なことだが、取り敢えず、買い換えれば解決すると思った。

件の「生まれ変わり」は、自宅から車で二時間かかる野田市の中古車販売店にあった。

購入を決めて、古い車で野田市に向かう途中、交通量の多い国道でエンストした。普通なら追突されて大事故になるところだが、今まで何度もエンストしていたことが幸いした。すぐにハザードを出して……というような訓練が出来ていたのだ。停止した場所の真横に空き地があったことも含め、健二さんには、これはただの偶然とは思えなかった。

レッカー車で中古車販売店に行き、今は二代目ボンゴフレンディに乗っている。

健二さんは自著の中で車中泊するご自分を「ヤドカリ」と呼んでいた。

車の魂にとっては車体がヤドカリの殻だ。彼の愛車は、無事に殻を替えたのだ。

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