生首(兵庫県神戸市) | コワイハナシ47

生首(兵庫県神戸市)

生首

一九九九年から翌年にかけて美容師の腕を競わせるテレビの深夜番組があり、それがきっかけで《カリスマ美容師》なる流行語が生まれた。当時、技術が高く髪型の流行を牽引するカリスマ美容師の店はどこも繁盛したものだ。

遼一さんはカリスマ美容師がいる神戸の美容室で一五年前まで働いていた。若かった彼は、一流のヘアスタイリストになる夢を追いかけ、昼は「カリスマ」のアシスタント業務、夜はヘアカットの練習と、寝る間も惜しんで精進していた。彼の店には「カリスマ」が考案した独自の昇級テストがあって合格すると給料が上がったから、いっそう励んだ。

美容師に盆暮れは関係ない。世間の休日は書き入れどきで、日に一〇〇人も来店した。

盆の入りだったその日も賑わっていた。三台あるシャンプー台が常に塞がるような状態だったが、ある女性客が特定のシャンプー台を嫌がったので、少々迷惑だったこともあって印象に残った。短い休憩時間に同僚にそのことを話したところ、同僚も同じ客に同じシャンプー台を拒まれたことがあり、そのとき「なぜですか?」と、その客に訊ねたら、

「あそこでシャンプーされると耳もとで声がしたり足を触られたりするんよ。ここは震災のときにおっきな被害があったとこやさかい……」

と、こんな答えが返ってきたと聞かされた。

やがてその日も夜になった。閉店は夜の九時で、それから後がアシスタントたちの練習タイムだ。遼一さんは最後の独りになるまで粘った。昇級テストが明日に控えていたのだ。

練習台は通称「ウィッグ」という毛の生えたマネキンの頭。ウィッグの毛をカットしては鏡で確認するうちに、問題のシャンプー台が気になってきた。

その辺りが鏡に映って自然に目に入るせいだ。そこだけ変に暗いように感じる。気を紛らわすために大きな音でBGMを流してみたが、ついチラチラと見てしまう。

やがて、カットが仕上がってきたウィッグを鏡越しに点検していたら、件のシャンプー台の上で何かが動いた。見れば、シャンプー台の椅子に生首が乗っている。

──なんや、ウィッグか。脅かさんといてや。

と、胸を撫でおろしたのも束の間。

落ち着いて見直してみたら、店のウィッグはどれも女性を模しているのに、それは薄毛の男の頭だった。左右の目がバラバラな方向を向きながらヌラヌラと粘っこく光っており、薄い唇を歪め、息づくように微かに上下に揺れていた。そいつと、鏡越しに目が合った。

遼一さんは何もかも放り出して逃げ帰り、翌日、BGMと照明を点けっぱなしで鍵も掛けずに帰宅したことで「カリスマ」にこっぴどく叱られた。

美容院のウィッグ

勤務先の美容院に居残ったところ、怪奇現象に遭ってしまった遼一さん。彼の言うことを、先輩のタナベさん以外、誰も信じてくれなかった。

タナベさんによると、休憩室に置いてあるウィッグがひとりでに動くのだという。

スタッフの休憩室にはウィッグの棚があり、さまざまな髪の長さのウィッグが幾つも並べられている。ウィッグといえども人の顔がついているから、こっちに向けて置かれると気味が悪いという理由で、この店では必ず後ろに向けて並べるという決まりがあった。

「それが、いつの間にかこっちを向いてることがあるんや。必ず一つだけ。どのウィッグかは決まってへんが、気がつくと一個だけこっち向きになってるんや」

遼一さんは二度と独りで店に残らなかったし、ウィッグが怖くなり、しばらくして結局、美容師を辞めてしまった。

遼一さんが退職した後、この美容院は別の場所に移転した。

霊感社員

サラリーマンになった遼一さんが勤務する会社に、中途採用で入ってきた女性がいる。

彼女は、入社面接の際に転職の理由を訊ねられると、こう述べたという。

「前の会社にいたときオバケを見たんです。社員寮の裏に墓地があって、部屋の鏡に体が半分透きとおった女が映るようになったので辞めました」

珍回答だが、遼一さんの会社の社長が物好きで、これがウケて採用になった。

しかし入社して間もなく、彼女は「この会社には霊道があります」と言いだした。

そして彼女は、伝手を頼って霊能者に協力を願い、社長に結果報告をした。

「建物の二階に霊道がありましたが、遠隔操作で閉じてもらいました」

実は誰も彼女に話していなかったが、遼一さんを含め数人の社員が、社屋の二階で白い影を見かけたり、怪しい気配を感じたりしたことがあった。

その後、そうしたことは一切起きなくなった。

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