狐の嫁入り(宮城県仙台市) | コワイハナシ47

狐の嫁入り(宮城県仙台市)

最近、天気雨を見たら思い出したことがあるから、と、美咲さん(※)が連絡を下さった。

宮城県仙台市の七ヶ浜町が、まだ津波の被害に遭わず、穏やかな日々を紡いでいた当時のこと、美咲さんは小学校の低学年で、放課後は学童保育に通っていた。学童保育の施設は小学校と敷地つづきで、小学校との境には子どもたちが育てている菜園と駐車場があった。

学童保育のプレイルームには大きな掃き出し窓があり、そこから沓脱石を踏んで表へ出られた。窓のすぐ外は小さな庭で、先生の許可を貰えば、そこで遊ぶことも出来た。

六月初めの、そろそろ梅雨が近づいてきたな、という頃に、仲間一〇人ばかりとプレイルームで遊んでいたら、窓の外が目に入った。

雨が降ってきたようだった。窓辺で立ちあがると、庭の向こうの駐車場に静かな雨が降り注いでいるのが見えた。

しかし何かが変で、胸に引っ掛かったので目を凝らしてよく見てみたところ、雨が降っている範囲がおかしい。車一台分ぐらいの四角いスペースにだけ、降っている。

幼いながらも「ほいなはずがねぇ!」と思うから、窓ガラスに張りついて、じっくり観察したのだが、間違いなく、天から雨がそこにだけ降ってきていた。

耳を澄ますと、サーッという雨音も聞こえた。だが、空には一点の雲も無かった。

いつの間にか、子どもたちも学童の先生たちも、全員、美咲さんと同じように窓に取りついて外を見ていた。

「見に行っていいが?」と美咲さんはワクワクしながら先生に訊ねた。

そのとき、雨が降っている地面でバシャンと水が跳ねた。誰もいないのに。

それを見て、先生が「行ぐな!絶対行っちゃ駄目だっちゃ!」と言った。

そこで、窓から眺めるだけで我慢することになった。

雨はまだ、そこだけに降りつづいて、バシャンも何回かあった。

人が足踏みしているように、バシャンバシャンと水が蹴散らかされて跳ね飛ぶのだ。

「あいなのは狐の嫁入りど言って、あそごさは悪いものがいるのだがら、近づいぢゃならねえんだっちゃ」

先生は青い顔をして、不思議な雨を本気で怖がっているようだった。

──美咲さんは眺めるのに飽きて友だちと遊びはじめ、気づいたら止んでいたとのこと。

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