カベ(大阪市中央区) | コワイハナシ47

カベ(大阪市中央区)

大阪日本橋の雑居ビルの二階に「妖怪研究所」という看板がかかっている。

本業は出版物の企画、制作をしている事務所なのだが、主宰のKさんは妖怪研究をしていて、あちこちで妖怪のセミナーを開いたり、イベントを仕掛けたりしている。だから「妖怪研究所」という看板なのだそうだ。

ここでSさんというライター志望の男性がアルバイトをしていた。

ある日のこと、「福岡までの新幹線のチケットを買ってきてくれ」とKさんに言われ、Sさんは安売りチケット屋へと走った。

その帰りのこと。

携帯電話のメールが来たので、Sさんはそれを確認しようとうつむきながら事務所の階段を上がっていた。と、ドンとなにかに頭をぶつけて、そのまま階段を下まで転げ落ちた。

「あいたーっ」

一瞬死ぬかと思った。

身体のあちこちに走る痛みに手でさすりながら立ち上がって二階を見た。

踊り場にある壁が階段をふさいでいる。

「壁?」

信じられない気持ちで踊り場まで上がって確かめてみる。

間違いなく壁だ。それも普通のコンクリートの壁としか思えない。手触りも固く冷たいコンクリートの壁だ。

「そうだ、ビル間違えた」

そう思って外に出てビルを見る。

……間違っていない。

もう一度中に入ると、踊り場の壁が消えていた。

あわてて二階の事務所に戻って報告した。

「Kさん!Kさん!今ね、今ね!そこの踊り場に、壁があって、壁が出来てて、ドンと僕当たって下に落ちたんですよ。ほら、体中に痣あざ、額にもタンコブできてるでしょ」

するとKさんは「ぬりかべ」と一言。

「はぁ?そんなアホな。ぬりかべちがいますよ。本物の普通のコンクリの壁です」

「だからぬりかべ。ははあ、自分ぬりかべに気にいられたな」とニヤッと笑われた。

これはKさんに完全にバカにされていると思った。

その夜、Sさんは自分のマンションへ帰った。Sさんの部屋も二階。

見上げた階段の上に壁がある。

「あっ、また!」

昼間事務所の前にあった壁とまったく同じ物。よくよく見ればどちらのビルとも違う材質の壁だ。コンクリートとも漆しつ喰くいともいえない、しかし上も横も下も隙間ひとつない壁だから、やはり壁としか言いようのない灰色の遮しや蔽へい物ぶつ。

さすがに怖いというより相手にするのが嫌で、エレベーターで二階へ上がった。

その日にだけ出会った体験だったという。

翌日、その報告を聞いた妖怪研究家のKさんは、「本当だったのかぁ」とはげしく悔しがったという。

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