燃えたビル(大阪市) | コワイハナシ47

燃えたビル(大阪市)

かつて大阪市郊外に大手人形メーカーの工場と倉庫を兼ねたビルがあった。

学生などがアルバイトでこのビルの担当になっても、なぜか長続きしない。辞めた人の間では奇妙な噂がささやかれていた。

人づてにその話を聞いていたMさんが、高校の後輩ふたりを誘ってこのビルに入った。

休日の昼間をねらい、裏の通用口から警備員の目を盗んでビルに侵入した。

廊下や階段を歩くと足音で気づかれそうなので、警備員室から離れた上の階に移ろうとエレベーターに乗った。

動き出したとたん、すうっと身体が軽くなった。

「あっバカ!上だろ!」

表示は確かに上になっている。最上階のボタンが光っている。

しかし間違いなく下へと降りている。

だんだん三人とも青ざめていった。エレベーターがいつまでも降り続けていくからだ。

表示はB1で止まっている。

どうなってるんだ?

三人があわてている間も、エレベーターはまだまだ降り続けた。

プン。

止まった。

ドアが開くと、その先がない。

ドアの先は上下左右、足先さえ真っ暗だ。いや真っ黒だ。

エレベーターの光が届くものが何もない。

風や空気の動きもない。

ドアの外には床さえないような気がする。

Mさんは早く〝閉まる〟のボタンを、と言いかけたが、後輩の指が〝閉まる〟を押したままになっている。

……。

後輩たちはひどく怯おびえている。

このまま帰れなくなるのか?

エレベーターが動かないのなら、試せることはひとつしか思い浮かばなかった。

「俺が試しに出てみる」

正直怖いし、後輩にも止められたが、ふたりを引っ張りこんだ先輩の面目がある。

Mさんはゆっくりとその真っ黒なところに足を下ろした。

フニャとやわらかく沈んで、止まった。

まるで水みず羊よう羹かんを踏んでいるようだが、どうにか立てる。ところがもう一歩踏み出すと、そのままバランスを崩して、とっとっとっと三、四歩前に飛び出してしまった。

しまった、と顔をあげてもあたりに光はない。闇の中にポツンと自分ひとりがいる。

あわてて振り返ると、エレベーター入り口だけが四角く光っている。

わずか1メートルほどしか離れていないのに恐ろしく遠い気がした。

今あのドアが閉まったら、帰れない!

夢中でやわらかい上を歩いてエレベーターに戻り、後輩を押しのけてボタンを連打した。

ドアが閉まり、すぐ一階で停止した。

帰れた、と三人で顔を見合わせた。

ドアが開くと、前で警備員が仁王立ちしている。

「こら、お前ら、何しとる!」

ものすごい剣幕で叱られた。

怖いはずが、他人の声がありがたく思えた。ところが警備員はそのあと声を落として「お前ら、勝手に地下室行かなんだか?」と言う。

「えっ!?……行きました」

「どんなやった?」

話して大丈夫かなと三人は顔を見合わせた。

「まっ、真っ黒でした」

すると警備員に、ちょっと来い、と三人が入った裏口へ連れて行かれた。裏口よりさらに奥に地下に降りる階段がある。そこを降りて地下室のドアを開けると、「この中見てみ、お前らの見た地下室はこれか?」と聞かれた。

見ると、コンクリートの床にダンボールの箱が積み重なった普通の倉庫だ。

その向こうに自分たちがさっきまで乗っていたエレベーターのドアが見える。

「………僕らが見た地下室は、本当に真っ黒なだけで光はありませんでした」

「……でもな、地下室ここしかないんやで」

「でも本当です」

警備員はしばらく間を置いて、「床、ごっついやわらかなかったか?」と尋ねた。

ぎょっとして、答えられない。

「やっぱりな……このことは誰にも言うなよ」

三日後、そのビルは全焼した。

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