居るべき所(岡山市) | コワイハナシ47

居るべき所(岡山市)

岡山県岡山市の吉井川の近くで生まれ育った俊夫さんの趣味は釣りだ。釣り仲間のトヨタさんは五〇を過ぎても独身で、近所に住んでいるので、よく家に遊びに行った。妻と年頃の娘がいる俊夫さんの家にトヨタさんは来たがらないし、俊夫さんも気を遣う。集まるにはトヨタさんの家の方が都合が良かった。

その日もトヨタさんと俊夫さんは、トヨタさんの家で釣り談義に花を咲かせていた。

今どこで何が釣れているか、今度はどこに釣りに行くか。釣りマニア同士、そういう話は一向に飽きない。楽しくおしゃべりしていたら、白い煙で出来た西瓜ほどの大きさの球が、人の背丈ぐらいの高さに浮かびながら、開けてあったドアから入ってきた。

目で追っていると、隣の部屋の方へ、ふわりふわりと、少し上下しながらゆっくり移動していく。やがて、襖の隙間に吸い込まれて消えた。

「ありゃ何でぇ?」

球が行った方を指差して、トヨタさんに訊ねた。トヨタさんは平然と答えた。

「えっ、見えたん?……うん、今なあ、ばあさんじゃ。たまに死んだ猫も来るがね」

身内だから見守ってくれているだけで、ときどき出てもらった方が安心感があるとトヨタさんは語った。

「供養もきちんとしとるけぇ」と彼が胸を張るので、そんなものかと俊夫さんも思った。

それからしばらくして、トヨタさんは癌で亡くなった。

大切な友人を喪って俊夫さんは悲しくてたまらなかったが、安らかにあちらの世界で眠っているものと思っていた。ところが初盆の夜になったら、屋根で誰かが歩きまわるようなミシミシという音がしはじめた。それが元気だった頃のトヨタさんがそうだったように体重の重い男の足音だったので、トヨタさん、起きてきちゃったのかと驚いた。

──いや、お盆じゃけぇ来ただけじゃ。お盆が終わったら彼の世へ帰るじゃろう。

すぐにそう考え直したけれど、お盆が済んでも足音は毎晩続いた。いったん始まると何時間も歩きまわる。妻子が怖がっているし、そろそろ屋根が壊れそう……。

困り果てて、顔見知りの寺の住職に相談すると、

「家に帰ったらお茶を淹れて、それを熱いうちに家の玄関の外に撒きながら、居るべき所に帰りんせと伝えられぇ」と教えられた。

住職に言われたとおりにしたところ、屋根の足音がピタリと止んだ。

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