峠清水トンネル(岡山県) | コワイハナシ47

峠清水トンネル(岡山県)

峠清水トンネル

岡山県に住む大学生の陸さんは《片鉄ロマン街道》にある《峠清水トンネル》を訪ねた。

陸さんはオカルト好きが高じて、ときどき仲間を募っては心霊スポットを探検しに行く。

近頃では、岡山県内の名だたる「スポット」は制覇してしまい、同好の士の口コミを頼りにオバケが現れそうな場所へ足を運んでいる。

峠清水トンネルも、いつもの仲間から教えられただけで、インターネットを検索しても心霊系の噂が全然出てこない所だ。教えてくれた仲間にしても、訪ねたときに「ゾッとした」という程度で、ハッキリ何かを目撃したというわけではなかった。

それを言ったら、陸さんだって幽霊を見たことなんか一度もない。幸いにも家同士が近い伯父の俊夫が理解があって、釣りに付き合いさえすれば、ゾッとした程度の話でも喜んで聞いてくれる。峠清水トンネルでオバケに遭遇したら伯父さんに話すつもりだった。

さて、春の日和を選んで、早朝、陸さんは峠清水トンネルへ向かった。

ここには昔、ローカル線の線路があったが、廃線となって線路は撤去され、今はサイクリングコース兼遊歩道《片鉄ロマン街道》の一部になっている。陸さんは自転車を持っていないので、コースの出発点として推奨されている《備前市サイクリングターミナル》に車を停めて、徒歩で一本道を進んでいった。

一〇分ほど歩くと、前方にトンネルの入り口が見えてきた。元はレンガ造りだったらしく、トンネルの入り口に古い赤レンガがアーチ状に残されていた。それ以外はすっかり改修されて滑らかなコンクリートで固められている。トンネルの上や両脇は樹々が鬱蒼としているが、トンネル内部は朝から蛍光灯で明々と照らされており、怖い雰囲気は皆無だ。

真夜中に来ればよかった……と反省しながら、トンネル内に歩を進めると、出口の方から年輩の夫婦が歩いてきた。男性は上品な灰色のブレザーを、女性も似たような色の上着を羽織っていて身なりが良い。どちらも柔和な表情で、仲睦まじい雰囲気が伝わってきた。陸さんは礼儀正しい性質だから、先んじて爽やかに挨拶した。

「おはようございます」

夫婦は微笑んで「おはようございます」と彼に返した。互いに会釈をして擦れ違い、陸さんは気分よく出口まで歩き、そこで踵を返したのだが、さっきの夫婦の姿が見えない。

ずいぶん足が速い、と、思いながらトンネルを引き返して来た道を戻っていくと、さっきとは別の男女が歩いてきた。そこで、年輩の夫婦が歩いてこなかったか訊ねたところ、誰とも擦れ違わなかったし、そもそもあなた以外の誰も見ていないと男女は答えた。

脇道の無い一本道なのに……。陸さんは「初めて幽霊を見た」と伯父さんに報告した。

貞子と志麻子の郷(岡山県)

この《峠清水トンネル》は、かつて岡山県備前市の旧片上駅から久米郡柵原町(現美咲町)の柵原駅まで通じていた同和鉱業の《片上鉄道》の旧線路上にある。同鉄道は一九九一年で廃線となり、二〇〇三年、全長三四キロメートルのサイクリングコース《片鉄ロマン街道》に生まれ変わった。コースのほとんどが自転車・歩行者専用道路なので安全にサイクリングや散策を愉しむことが出来るとのこと。

さて《峠清水トンネル》なのだが、住所を調べると、岡山県備前市から同和気郡和気町にまたがっていて、前項の陸さんが怪しい夫婦と遭遇した出口周辺は和気町の町域に入る。

岡山県の和気町と聞いて私が想起するのは、ホラー作家で友人でもある岩井志麻子先生と、映画『リング』の貞子のモデル・千里眼の高橋貞子だ。

どちらも和気町出身という、ただそれだけの話なので、閑話休題とさせていただく。

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