新世界の真剣師(大阪市) | コワイハナシ47

新世界の真剣師(大阪市)

大阪市内にあるK大学で教鞭を取っている、N先生から聞いた話。

僕大学生やった時にね、新世界の真剣師とよう打ってたの。負けることもあったし、勝つこともあったよ。トータルの金額はプラマイゼロくらいかなあ。

面白かったよ。いろんな人おったからね、ほんまもんのヤクザもおったし、代打ちもおった。大学出たら全く行かんようになったけどね。

もう今考えたら、映画の中の世界みたいやったなあ。紫煙の中の真剣勝負。指の足り無いもんもおったし、将棋で全財産擦ったと言ってる人もおった。鬼加賀と呼ばれた加賀敬治と勝負経験ある人もおったしね。

そん中で、僕が一番覚えてるんはトンさんやね。本名は知らんかったなあ。

負けそうになると、色んな手使うてトンズラしようとするんよ。だからトンさん。

ただ走って逃げることもあれば、狭いトイレの窓から身を捩って出て逃げたり、酷い時なんか腕をこうクロスさせてバーン!って扉のガラスぶち破って逃げたりね。

まあでも勝負無しになること多かったけど、妙に人として愛嬌があるというか、憎めない人でね、当時若造やった僕にもようしてくれたし、金もないのに煙草おごってくれたりしました。

でもねえ、何が原因やったんか知らんけど、ある日突然ねえ、トンさん死んだと聞いたんです。

当時は衝撃というか、かなりビックリしてしまって。いっつも元気そうに見えたからね。

まあ、めちゃくちゃやってた人やし、ああいうタイプは長生き出来るわけあらへんって今なら分かるんやけどね。

で、みんな、トンさんが死んだって知らせ聞いても、あんまり悲しんでる人がおらんでね。

酷いヤツやったなあ、言うことばっかりいつもでかくって、とかそういう悪口ばっかり言うてたの。その日も将棋打ちながら、トンさんに幾ら貸してたとか、そういう話で盛り上がってた時にですよ、バチィッと駒を打つ音がして、窓から千円札がひうっとね、舞い込んだんです。

その場におった誰かが千円札をパッと手に取ってね、こんなん利子の足しにもならんぞ!って怒鳴ってね。トンさんがあの世から運んできた千円札やし、黙って取っときって言う人がおったんです。

それ以来かな、トンさんの悪口言ったらバチィッ!て駒の音がするようになったらしいけど、そんなカッコつけてバチバチ鳴らす元気あるんやったら、借金を早く全額返さんかいって、みんな言うようになってね。

そんな風に答えたせいかな、しまいに音せんようになってしまったんです。多分、借金を返す当てがなくて、決まり悪くて化けて出て来られんようになったからちゃうかな。カッコつけやったらしいからね、トンさん。

うん。見た目だけは凄いかっこいい人やったよ。打ってる時は映画の主人公みたいに見えたもん。

だから弱いし、大きなことばっかり言う人だったけど、みんなカモにするわけでもなく、トンズラ何べんされても、対戦相手にしたがったんだろうね。

かっこいい人の傍にいるとね、自分もかっこよくなったような気分になれるしね。トンさんみたいな人、今もおったら僕も会いたいもん。

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