托鉢僧(神奈川県横浜市) | コワイハナシ47

托鉢僧(神奈川県横浜市)

横浜市内のある神社の奥さんが子供の頃のことだという。

ある晩、「申し訳ないが、一晩泊めていただけぬか」と旅のお坊さんが訪ねてきた。

「うちは神社だぞ。神社に旅の坊主とは、どうも怪しいな」と神主を務める父はいぶかしがった。

しかし母は「きっと長旅でお疲れなんですよ。人の道に神も仏もありませんよ」とそのお坊さんを座敷に招き入れた。

身なりこそ長い旅の風雪を想わせるほどに汚れ切っていたが、寡黙に凜りんとした人物は立派な托鉢僧に見えたという。

食事を出し、「お風呂も沸いてますからあとでどうぞ」と勧めると、「重ね重ね忝じけない」と丁寧にお辞儀して、両手を合わせる。

「お父さん、疑い過ぎよ。立派なお坊さんよ」と母は言う。

「そうか、考え過ぎか?」と、父はそれでも面白くない、という顔をした。

しばらくして母は、お坊さんを奥のお風呂に案内した。

両親はお茶を飲みながら世間話をしていたが、お坊さんはなかなか風呂から出て来る気配がない。

坊主にしては風呂が長いと、また父が首をひねった。

「きっと長旅でお疲れなんですよ」と母は言うが「いや、それにしても長すぎる。やっぱり普通じゃない。本当に入っているのか?」と父は疑う。

ちょっと見てくる、と言う父に「おやめなさい。失礼にあたるでしょ」と母は止めるが、「なに、ちょっとのぞいて気づかれたら、お湯加減いかがでしょうかって、ごまかせばいい」と、そっと風呂場に向かった。

風呂場からは、パチャン、パチャンという水音がするので、いなくなったとか中で寝ているということではないようだ。

脱衣所には、ちゃんと僧衣が置いてある。

スッと風呂場の扉を少し開けて、中をのぞいてみる。

ええっ!

風呂桶おけの縁に一匹の大狸がのそりと座っていて、その尾っぽを湯船の中に、パチャンと入れては出し、入れては出しを繰り返していた。

その神社には、逃げた大狸が使った茶わんと箸が大切に残されているという。

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