学生帽(東京都) | コワイハナシ47

学生帽(東京都)

A子さんが高校生だった頃の話。

当時彼女は都内の下町に住んでいた。

それは三月十日だったと今もはっきりと覚えている。期末試験前の試験勉強の真っ最中だったからだ。

A子さんの家の隣のビルで改装工事がはじまり、うるさくて試験勉強どころではなくなった。

そこで、近くに住むおばあちゃんの家で勉強をさせてもらうことにした。

夕方、おばあちゃんが買物に出かけた。

家にはA子さんひとり。

畳のすれる音が聞こえたので振り返ると、隣の部屋で学生服に学生帽をかぶった男の人が体育座りをしている。

こちらを見ることもなく、うつむくようにしてじっと座っている。

誰だろうと思ったその時、ただいま、と玄関からおばあちゃんの声が聞こえた。

おばあちゃんを呼んで、「この人、誰ですか?」と聞くと、おばあちゃんはにこっと笑って、「あんたにも見えるのかい?今年も来たんだね、あの人はおじいちゃんの弟さんだよ」と言う。

その人は都内の大学に通う大学生だったが、戦争中、あたりが空襲で火事になった時に行方不明になったままなのだという。

焼け残った鞄の中から学生帽だけが見つかった。

今、弟さんのお墓の中には、遺骨の代わりにその学生帽だけが納められていると教えられた。

おばあちゃんは、「今日はそういう日だからね。あの人の分も御飯作ろうね」と言って台所に立った。

いくらおじいちゃんの弟さんだと言われても、生きている人ではないと思うとA子さんは怖くて仕方がない。

おばあちゃんの側に立って、台所からずっとその人を見ていたという。

その日の夕食はひとり分多く作られた。

A子さんも手伝って食卓に並べ終わった時には、学生服の男性はいつの間にかいなくなっていた。

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